ルウとリル-3
「きゃぁぁぁぁっっっっ!!」
たまたま通りかかった女性がハンドバッグを落して悲鳴を上げる。
だがそんな事を気にせず、今斬り付けた警護者が足を押さえたまま倒れこむと、その首にナイフを掛け思いっきり手前に引く。
引っかかりがあったもののナイフは首を通って手元が軽くなる。
ごとり、と首が落ち、左手から漏れるホテルの明かりを受けて辺りに血が出来たのを確認した。
やっと顔を上げるとターゲットの男は尻餅を付き失禁したのか辺りにアンモニア臭が立ち込める。
「悪いな、オレ達はお前が何をしたのかも、どんな奴なのかも知らないし興味もないけど」
ルウが顔に着いた血を袖で拭いながらターゲットに向かって言う。
ターゲットはルウを見つめて、口をパクパクと繰り返していた。
最早命乞いさえ思い浮かばないらしい。
「……こうしないと、わたし達は生きていけないの」
わたしがルウの言葉の後を継ぐ。
ターゲットがわたしを見た。
瞬間、男の目が見開いた。ぎょろりと眼球が動く。
ルウが背後から脳にまっすぐにナイフを突き立てている。
わたしがその目を見つめながら首元を切り、ルウのもう1本のナイフが心臓を捕らえた。
ルウとわたしの距離はほんの僅かに縮まっていて、二人同時に顔を上げ、同じタイミングで頷いた。
ルウがナイフを引き抜き、わたしは先に走り出す。
やっと到着した警察車両が赤灯とサイレンをこれでもかとアピールしながらホテルに入ってくる。
それを避けるように植え込みに飛び込む。
頭に地図は全て入ってる。
あと2地区先のマンホールへ向かわないといけない。
ナイフで邪魔な枝を何本か切り落とし植え込みから出る。背中のベルトにナイフを挿し、パーカーで隠す。
顔を袖で拭ってフードを外した。
髪が風になびいてひやりとした。
想像以上に汗をかいたようだ。
足音が響いてきたのを機に走り出し、手袋を外してポケットに入れるのと同時に無線機のスピーカーを大きくした。
マイクは襟元についていて、これでいつでもルウと交信出来る。滅多にしないのだけれど。
もう片方のポケットからウェットティッシュを出し足は止めずに一枚出して顔を拭いた。
思ったとおり拭いきれていない血が茶色くティッシュに移った。
夢中になっていたせいか目の前のドアが開いた事に気づかず中から出てきた男性とぶつかりそうになり足を止めた。時間のロス。
「っと、お嬢ちゃん。危ないよっ」
男が叫ぶが後ろを振り返らずに走り続けた。今顔を見られるのはヤバイ。
男がわたしを見てるかどうかも確認せずただただ走り続け本来よりも少し遠回りをした。
後を付けられてないかどうか角を曲がった所で細く暗い路地へ入る。
そっと顔を出して覗くと男はどうやら付いてきていないらしい。
左右を見て誰も居ないのを確認するとまたわたしは走りだした。
約束のマンホールに着くとルウが心配そうな顔をして立っていた。
側には白いワンボックスカー。
わたしの足音が聞こえたのかルウが走って近寄ってくる。