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嘆息の時
【その他 官能小説】

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「続・嘆息の時」-8

ま、間違いない……篠塚さんは、確実に俺のことを好きになっている……。

相手の気持ちに確信を持ち、グッと顔に力を込めていく。
モワモワッと浮き立っていく感情。
しかしその反面で、少しばかり不安も湧いていた。
なんとも不条理なことだが、いま柳原の頭には『結婚』の文字も浮かんでいる。
ひとり車の中で頭を掻きむしった。
脳は必死になって将来設計の図面をひいていた。


その日、賑わう「シュフズ・キッチン」の店内では、柳原が慌しく動きながら作業をこなしていた。
流行の嘔吐下痢症によって、欠員を二人出してしまったのだ。
沢木も不在のなか、柳原が足りない人員分を精力的に埋めていく。

「滝川くん、バッシングは伊藤くんに任せてオーダーを先に取ってきて!」

少ないスタッフ達に的確な指示を無駄なく行い、自身もスピーディーに動きまわる。
みんなの頑張りもあり、なんとかピークタイムを大した問題もなく乗り切ることができた。
休憩まわしを行いながら、一人一人に労いの声をかける柳原。

「滝川くん、お疲れさん。滝川くんが頑張ってくれたから、なんとか無事にまわすことが出来たよ。ほんとにありがとう」

澄んだ眼に強く感謝の意を込めながら、柳原が軽く頭を下げる。

「いえ、そんな、とんでもないです。店長の指示に頼りきってしまい、いま自分で反省しています」

柳原の言葉に謙遜しながらも、素直に照れたような笑みを愛璃は浮かべた。
その表情に、柳原の脈が迂闊にも荒ぶってしまった。

いま自分の心は篠塚涼子にある……だから、もう滝川愛璃のことは大丈夫だ。

そう思っていた。
現に、夜な夜な思い出すのは篠塚涼子のほうだった。
有理を連れて遊園地へ行ったあの日、はじめて自分のほうからデートに誘った。
あれから涼子とは二度ほど飲みに行っている。
肉体関係はまだないが、前回の別れ際に交わしたキスが次の展開を明確にしてくれた。
涼子とは、今夜も逢うことになっている……場所は、市内にあるホテルの一室だった。

「店長……お願いがあります」

愛璃が、つぶらな瞳を真っ直ぐに向けてくる。

「んっ? な、なんだ?」

「私を……私をもう一度はじめから鍛え直してください」

真剣な表情で言う愛璃に、柳原は少したじろいだ。
正直、鍛え直すもの何も、愛璃はじゅうぶんな働きをしてくれている。すでに申し分ないレベルだった。
愛璃の頑張りがピークタイムを支えたという言葉は、大袈裟でも何でもなく、柳原の正直な見解だった。
柳原は、やや緊張しながら真っ直ぐに見つめてくる愛璃の眼を覗いた。
その眼からは、仕事に対する強い意欲がありありと伺えた。


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