保健室のヒマワリ-8
『どうして…っ』
『痛…い…』
先生の腕を掴む手に思わず力が入る。
痛みを訴える先生の言葉で我に帰り、両手の力を少し抜いた。
『思春期って感受性が豊かだし、年上のあたしに憧れてるだけよ。憧れを恋だと錯覚してるだけ。あたしが去ればすぐに忘れるわ。』
先生は淡々と言葉を紡ぐ。
『それを……先生が決めんの?』
伝わらない想いに、歯がゆさが増す。
『俺の目を見て…、ちゃんと応えてよッ!!』
でなきゃ……、俺が救われない……。
壁に抑え付けられたままで、恐る恐る先生が顔を上げた。
『俺は、先生が好きなんだ』
真っ直ぐに目を見据えて言った。
見つめ合ったまま、沈黙が流れた。
『ありがとう。嬉しいわ……。今までちゃんと向き合え無くてゴメンね。
高木君と一緒に居ると楽しかった。本当よ…』
先生の目から1筋、涙がこぼれた。
『俺じゃ……、ダメなんだよね?』
抑え付けていた腕を離し、すがるように先生を抱きしめた。
『年を重ねると恋愛に臆病になるの。安全な道を選んでしまう。
あたしは狡くて、臆病者だから…全てを捨てて、高木君の未来を背負う事は出来ない……』
先生の肩が微かに震えている。
俺には先生の本心も、言葉の意味も分からなかった。
『俺には背負えるよッ!!!』
ただ、子供みたいにむきになって反論する事しか出来ない。
『……無理よ。』
俺の腕の中で顔を上げて、真っ直ぐ俺を見て言った。
『あたしにそれが出来ないもの』
もう答えは出ていた。
俺が大人だったらもっと素直にこの現実を受け入れられたのかな?
先生に…おめでとうって言えたのかな……?