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保健室のヒマワリ
【学園物 恋愛小説】

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保健室のヒマワリ-9

『後10年早く…高木君が生まれていたなら、あたしはあなたを選んだわ……』


そう言って先生は俺の頬に手を当てて、“コツン”とおでこ同士をぶつけた。
先生のシャンプーの甘い香りが広がる。


『ズルいよ……』


俺の目から涙が零れ落ちた。
すげぇ今カッコ悪いだろうなって思う。
窓の外で咲き誇るヒマワリが、可哀相な俺を見て笑っている気がした。

ほどなくして俺は腕の中から先生を解放した。
どのくらい時間が経ったのか分からない。俺には永遠に感じたけれど、実際はほんのわずかな時間だっただろう。



解放された先生は無言で机で荷物を整理仕始めた




『じゃあ、帰ります…』

カッコ悪く鼻をすする俺の目は、まだ真っ赤だった。


『そう。』

短い返事をすると、先生は手を止めた。
先生の目も少し赤い。





『先生、さようなら』



『高木君、さようなら』


先生はいつものヒマワリのような笑顔で手を振って俺を見送った。
中庭のヒマワリが、出会った日と同じように誇らしく咲いている。


先生の肩が小さく震えていたのは、俺との別れが悲しいからだと自惚れてもいいかな?


俺は一度も振り返る事なく下足室まで走った。
何かを振り切るように、無我夢中で走った。
きっともう会える事は無いだろう。

最後まで「おめでとう」って言わなかったのは、ズルい先生へのせめてもの抵抗。


でも−−−ズルいのは俺も同じなんだ。
本当は気付いて居た。
出会ったあの日−−−−

先生の左手の薬指には……もう“指輪”がしてあった事。

知ってて、見えないふりをした。

先生が困る事を分かっていたのに、気持ちを伝えた。


本当は……、離したく無かった。
先生の温もりを。

先生の弱さを…全てを受けとめて、連れ去りたかった。

それが出来ないのは……俺が子供だから。


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