他愛ないお話-2
「でーきたっ」
「はぁ!?」
オレはまだ半分も終わってない。何故同じ人間でこうも違うのか。
「じゃあこれ出して帰るわ」
「この薄情者め」
「この暑さの前では余裕がないからな。じゃーな」
「くたばれアホ眼鏡」
オレの捨て台詞に鼻で笑い、西田は教室を出た。
あぁ、セミがうるさい。
「やっほー。元気?」
彼女がきた。
「吹奏楽部の練習終わったのか?」
「んや、今休憩」
そう言って彼女はオレの隣り、さっきまで西田が座っていた席に座った。
「どう?調子は」
「そうだな。すこぶる順調だ。見ろ、このオレが数学の問題を半分も解いた」
「わぁすごい!クズでも文字が読めるのね!?」
「お前殺すぞ」
彼女はオレの肩を叩く。
「ジョーダン!真面目にやればできるじゃない。その調子で頑張って、練習終わる頃には課題終わらせてよね」
「なにその曖昧なタイムリミット」
「一緒に帰ろうよ」
若干顔を赤くして言う彼女に、少し可愛いと思ってしまった。
畜生、顔は人並以上でも性格ゴリラだぞ。
「あいよ。存分に練習してこい。部室の前で体育座りで待っててやっから」
彼女は微笑みながら教室を出た。
あーあ、また一人。
寂しいのう。
それから一時間くらい経ったか。
ついに相田がやってきた。
「どうだ、終わったか」
「あと三問っす」
相田は満足そうに笑った。珍しく竹刀を持っていない。
「先生、愛用の竹刀はどうしたんすか」
「あれか、さすがに暑くて竹刀からうちわに変えたってわけだ」
そう言うと背中からジャージに挟んでたうちわを見せた。
暴力教師も暑さには勝てなかったか。
「じゃあ今僕が課題を残したまま帰ってもあんまり痛みはないと?」
「そうだな。竹刀の代わりにオレの黄金の右がお前の左頬に炸裂するだけだ」
それはキツいな。生命にかかわる。
「お前は、将来どうするつもりなんだ?今みたいにフラフラできるとは、思ってないだろう」
そりゃそうだ。でも先生、興味ないんですよ。
自分の未来でさえね。
「小林はちゃんとK大受験に向けて、頑張ってるぞ?」
小林とはオレの彼女のこと。
「ほっといてください。あと一問なんで」
「おう。できたら職員室のオレの机に置いとけ」
そう言って先生は教室を出た。
「遅い!!!」
彼女だ。
「なんだ。練習終わったのか」
「うん、ほら…早く帰ろうよ」
「なんでK大受けるんだ?お前ならもっといい大学行けるだろ」
彼女はため息を吐いた。
「この鈍感。K大ならあんたでも真面目に勉強すれば行けるでしょ?」
オレはプリントから目を離し、彼女を見た。
「どうせ就職しないんでしょ?だったら…一緒の大学行こうよ」
つい笑ってしまった。
こんなオレと一緒にいてくれる奇異な女は、お前だけだよ。
「わぁったよ。頑張るよ。勉強…するよ」
「本当!?」
「多分な」
彼女を抱き寄せ、膝の上に乗せた。
「ちょっと……、恥ずかしいって」
「いーじゃん。ほら、こっち向けって」
顔を近付ける。彼女は顔を真っ赤にしながら、目を閉じた。
「悪い悪い忘れてた。そのプリントの最後の問題は……、おっと小林」
相田がやってきた。