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他愛ないお話
【コメディ その他小説】

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他愛ないお話-1

セミの鳴き声が、暑さをひき立たせる。
教室にクーラーなんてもんはなく、オレを唯一救っているのは、左手に握っているうちわだけ。
この上なく、地獄だ。




他愛ないお話




「狂ってるよな」
「あぁ、狂ってる」
何が悲しくて夏休みにまで学校に出なきゃならんのだ。本当なら冷房をガンガンきかせた部屋でゲームでもして、高校生活最後の夏休みを無駄に過ごす予定だったんだ。
…無駄ってことは自覚してるんだ。
「こんなことなら真面目に勉強すればよかった」
要するに、期末テストの成績が振るわず、今補習を受けているのだ。
「だいたい将来のことなんか決めてるわけねぇだろが」
「知ってるか?中井は進路希望調査書に第一希望は『大統領』って書いたらしい」
眼鏡をかけた友達、西田が言った。
「それは病気だな。せめて『首相』って書けなかったのか」
「突っ込むとこ、そこじゃねぇだろ」
適当に聞き流しながら、難解な数学の問題を解いていく。誰だ、因数分解なんか考えやがったのは?
このオレがドロップキックを見舞ってやるわ。
「帰りてぇ」
オレが呟いた。
「どうぞそちらの出口から」
西田がドアを指差した。
「無理だろ。いつ相田がくるかわかんねぇかんな」
相田ってのは、最高に怖い補習監督の先生だ。
何故かいつも片手に竹刀を握ってやがる。あれか?バランス崩して立てなくなんのか?杖か?
「だったらおとなしくこれ終わらせようぜ」
そう言って西田は、シャーペンで課題のプリントをコンコンと机ごと叩く。
「だな」
だが何度見てもわからない。病気はオレのほうか。
「西田は進路どうすんだ?」
「大学〜」
「その学力で?」
「うるせぇな。お前はどうなんだよ」
「偉人」
「偉人の意味わかってんのか?まぁ確かにお前は異人みたいだけどな」
「誰が異国の人じゃボケ」
西田が笑う。こんなやりとりも悪くないが、暑いのだけはいただけない。
せめて扇風機をいただけないものか。
まぁ西田はうちわすら無いから、まだマシか。
「つうかヤバくね?未だに進路決まってないのお前くらいだろ」
「だってよぉ…」
就職といっても現実感はまるでなし。大学といっても因数分解できない大学生なんか無理。ニートもなんとなくやだ。
あぁ、オレこの世界に向いてないんだ。
「………誰かオレを養ってくれねぇかな」
「彼女に頼め」
確かにオレには同じクラスの彼女がいるけど、
「この前それ言ったら喧嘩になった。この情けない糞野郎ってな感じで」
「それはお前が全面的に悪いわ」
さて、どうしたものか。
とりあえずは目の前の課題だ。
それから会話はなく、三十分近くたった頃に、西田が立ち上がった。


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