陽だまりの詩 epilogue-5
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運動会は無事に閉会した。
みんなで帰宅し、リビングで今日の運動会の録画を見ようと集まっていると、美菜が奏の所に駆け寄っていた。
「どうした?」
俺は二人の会話に入ろうとしゃがむ。
「今ね、ママにお願いしてたの!お花見に行こうって」
「美菜は疲れてないのか?」
「へーき!行きたいの!」
俺と奏は顔を見合わせる。
「じゃあ暗くなる前に行こうか」
「うん!」
「おうおう、三人で行ってこい」
お父さんがタバコに火をつけながら言った。
「じゃあ、上映会は夜にしましょうね」
お母さんも笑って言う。
「じゃあ、行ってきます」
俺が立ち上がると、美菜は玄関まで走り、奏は車椅子のほうへ向かった。
出かける前、俺はいつもの習慣で、自室に置いてある美沙の写真に向かって、行ってきます、と声をかけて家を出た。
少し歩くと、河原に着いた。土手には無限に広がる菜の花畑。
「パパとママが初めてデートしたのがここなんだよ」
奏は車椅子の上でえへへと笑う。
「お前、それ来る度に言うよな。っていうかあれはデートなのか?」
「デートだよ!」
「…そうか」
デートらしい。
「美菜の菜ってこの菜の花畑からつけたんだよねー?」
美菜が振り返って俺の顔を見た。
「そうだよ」
「じゃあ美菜の美ってなーにー?」
「…それはね、パパの大切な人の名前からとったんだよ」
奏は笑って言った。
「大切な人ー?誰ー?」
「いつかおしえてやるよ」
「パパはうわきものなんだー!いけないんだようわきしちゃあー」
「……なんでこいつはそんな言葉知ってるんだ?」
「…さあ」
一瞬、脳裏にお父さんの顔が浮かんだのはなかったことにしよう。