恋の奴隷【番外編】―心の音K[後編]-3
「あ、あのー…葉月君?何か間違えてはいませんか?」
「何かって」
「これ、手だよ?手首じゃないよ?」
「分かってるよ」
痛いくらいに私の手首を掴んで強引に引きずり歩いてたのに、一体どういう風の吹き回しだろう。さっきまで上がっていた息も落ち着いて今は全然苦しくない。葉月君は私と肩を並べてゆっくり歩いてくれているのだ。何を企んでいるのだろうと、訝しげに眉をしかめて葉月の様子を伺っていると、
「早く歩いてごめん」
なんて、潮らしく頭を垂らして謝ってきたものだから、私は驚いて声も出ないわけで。大きく見開いた目で葉月君の横顔を見ると心無しか、頬がほんのり赤く染まっている。
「こうやって歩くのが普通なんでしょ。付き合ってたら」
「え?…あ、うん…」
不覚にもちょっぴりドキドキしてしまった。まるで、付き合いたての恋人のように、ぎこちない会話と遠慮がちに繋いだ手。
恥ずかしそうに照れた葉月君が可愛いくて。
気にしてくれたことが嬉しくて。
自然と頬がふわっと緩んでしまう。
でもね……
「付き合ってないっつの!」
「しつこいな」
しつこいのはどっちだよ、オイ!
やんややんやと言い争いながらも、学校に着くまで葉月君は私の歩幅に合わせて、手を繋いで歩いたわけで。
予期せぬデートはこうして無事?幕を閉じた。
猫のように気まぐれな葉月君に散々連れ回されて疲れたけれど、なんだかんだ楽しかったかな、なんて思いながら教室に戻ると、私の机上に牛乳パックが一つ、置いてあったわけで。
兄弟揃ってしつこいのだと納得したのであった。