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嘆息の時
【その他 官能小説】

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嘆息の時-3

研修当日―――

「今回の研修、どうだった?」
「そうですね〜、やっぱり販促の打ち方が難しいですね」
「そうだな。販促ってのは、ひとつ間違えれば『百害あって一利なし』になる。まずは基盤をしっかりと作ってからじゃないと打てないな」
柳原の言葉に、沢木は真剣な表情で聞き入っていた。
この副店長の沢木という男は、柳原がもっとも信頼する部下だった。
来年もしエリアマネージャーの職に就くこととなったら、いま26歳の彼を自分の後釜にと柳原は考えている。
華奢な身体に柔和な顔つき。
サラサラとした髪は、少し脱色してあるが全く嫌味がない。普段は腰の低い真面目な男だが、いざクレームなどのトラブルが発生すると、誰よりも真っ先に客のもとへ向かって適切に処理する。柳原にとって、沢木という部下は頼りがいのある申し分ない男だった。
「ところで沢木、例の彼女とはどうなったんだよ? 結婚すんのか?」
愛璃との待ち合わせ場所に歩いて向かいながら、柳原は以前に沢木が相談してきたことを口にした。
「それが……ちょっと悩んでるんですよ」
「なんだ? まだ結婚するかしないかで悩んでいるのか?」
「いえ、そうじゃなくて……実は、他に好きな人ができちゃって」
「な、なんだよ、それ!? じゃあ、今の彼女はどうすんだ? 別れるのか?」
「正直、別れようと思ってます。でも……あの……そのことをなかなか口に出して言えないっていうか、タイミングが掴めないっていうか」
この男にもし欠点があるとするならば、少々軟派的な要素を持っているという所だった。
ファッションセンスが良く、口も上手く、おまけに顔とスタイルがいいとくれば女もほっとかない。まだ若いし、一度や二度の目移りも致し方ないところだろう。また、沢木自身はそんなつもりじゃないにしても、はたから見れば少々女性に対して馴れ馴れしいという感じがあった。
それにしても、4年間も付き合ってきた彼女と別れる決意までさせた女……いったいどれほどの女なのだろう……柳原は、野次馬感覚でその女に興味を抱いた。
「なあ、その、お前が好きになったという女ってさ、俺が知ってるやつか?」
「いや〜、それは……」
「なあなあ、いいじゃないか、ちょっとだけ教えてくれよ」
まるでお菓子をねだる子供のように、肘でツンツンと沢木の脇をつつきながら甘ったれた声を掛ける柳原。
「そのうち、言える状況になったら報告します」
「ええ〜、ちょっとぐらいさ〜、いいじゃん、なっ、なっ、教えなって」
「あっ、店長! 愛璃ちゃんですよ!」
「えっ、どこどこ!?」
愛璃という言葉に、柳原が敏感に反応する。
「おっ、愛璃ちゃんだ!」
沢木の指差す方向に愛璃の姿を見つけるや否や、柳原はダッシュでその場を離れた。
その柳原の後姿に、唖然とした顔を向ける沢木。
「こんばんは〜。なんだか不思議な感じですね、こうやって外で店長と会うなんて」
「そうだね。俺もなんか変な感じだよ。さあ、どこ行こうか?」
満面の笑みを浮かべる柳原の背後から、小走りでやってきた沢木が息を切らしながら声をかけてきた。
「愛璃ちゃん、おいっす! てか、店長、テンション上がりすぎですよ〜!」
「沢木さん、こんばんは。あらら、置いてきぼりにされたんですか〜?」
「そうなんだよ、愛璃ちゃんの姿が見えるなりダッシュなんてしちゃってさ」
「バ、バカ、待たせたら悪いだろ? ましてや、こんなに人通りの多い中、もし変な奴に声でもかけられたらどうすんだよ」
柳原が、少し焦ったような表情で沢木を睨む。


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