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ウソ
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ウソ×C-5

埃臭い倉庫の中。
ここで松田と主任が会ってたのも知ってる。だからここに呼び出した。
ここを二人の思い出の場所になんかしてやらない。
尻餅をついて左頬を押さえる主任はどこからどう見てもかっこ悪かった。
『上司にこんな事してただで済むと思うなよ』
そう言いながら微妙に震えてるし、そんな脅しはどうでもいいし。
『鍵、出せよ』
敬語を使う気はない。口を開けば女の話をするこんな奴、一瞬も敬った事はなかった。
『鍵?』
『松田ん家の合鍵』
『お前には必要ないだろ』
『お前こそ必要ねぇだろ』
ずっとしてやりたかったんだよな、お前呼ばわり。
それに対して不快そうな顔をするものの、抵抗はしない。
…こいつ、ヘタレだ。
カチャカチャとおぼつかない手つきでスーツからキーケースを出して、その中からキーホルダーの付いた鍵を抜き取って俺に向かって投げた。それを無言で受け取ってそのまま倉庫を出ようとする。
『お前は上司を殴ったんだぞ?それなりの事を覚悟して―』
『本社の人事に不倫してるって伝えてもいいのかよ』
『…お前の言う事なんか』
『証拠もあるし』
なんてね。
『証拠?』
俺の嘘を真に受けて顔色を変えた主任に、ニヤリと口角を上げて見せた。
『そう言えば、松田の欠勤理由知ってます?』
『…熱だろ』
『表向きはね』
『表向き?』
『なんか、性病らしいっすよ』
『せ…っ』





「誰が性病だあぁっ!?」
「あいつ超ビビってた、マジで?なんつって。うひゃひゃひゃひゃ」
「なんて嘘ついてくれんのよ!言い触らされたらどうするわけ!?」
「大丈夫だって、あいつが自分に不利になるような事するわけないじゃん」
「分かんないでしょ、そんな事!!もーっ、あたし性病になる様な事してないもん!不特定多数としたりしないしちゃんと清潔にしてるし!」
「よく言うよ、簡単に俺と寝たくせに」
「記憶が無いって言ってんでしょ、このレイプ魔!!」
「誰がレイプ魔だ!!」
「あたしが今まで何も言わなかったのは、自分で鍵を開けたと思ってたからよ!でもそうじゃないんなら、あんたは不法侵入の婦女暴行じゃない!意識がないのを良い事にヤっちゃうなんて最っ低!!」
ぼろくそに言うあたしに小松は、
「あー、お前そーゆう事言うんだ」
と、目を細めた。
「ほんとの事じゃん」
「なーんにも覚えてないのに人を最低だの犯罪者だの、言いたい放題ってあんまりじゃない?」
じりじりと距離を詰めるこの姿勢はこの前のそれと全く同じ。
ジロリとあたしを睨んで、それからフッと鼻で笑った。
「思い出させてやろうか」
「へ…っ!?」
聞き返す前に視界がぐるんとひっくり返った。
仰向けにされたあたしの両手首を小松の左手が捕まえる。体同士は完全に密着して、僅かに離れてるのはお互いの顔だけ。
…嘘……
「どうせ犯罪者呼ばわりされるなら、ちゃんと記憶のある奴にされないと、一回分損した気分だからなぁ」
お互いの息がぶつかる。小松の瞳に写る自分の顔が見える。それに、体に伝わる小松の重みと温度。
彼氏以外では有り得ない距離に戸惑うあたしの心音は、小松に筒抜けの筈だ。
「丁度布団も出来上がったみたいだし」
「え?あ!」
手持ち無沙汰が嫌でシーツの取り付け作業をしてたのに、あたしはそれの上に寝かされてしまった。
そんなつもりで作ったんじゃない!
「…ね、これも、嘘?」
雰囲気をぶち壊すように、今できる限りの軽い口調で聞いた。


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