『暖かい雪-4-』-2
吐く息は白く、冷えきった身体が風呂の湯で心地よく痺れる。
思えば、可哀想な子だと、深深と降る牡丹雪を見ながら思った。
3年前父親が過労で死に、それと同時に生まれ育った東京を離れ、母親の故郷とは言え何も知らない新潟に越してきた、と。
それでも彼女は、決して曲がらず健気に生きているのだ。
露天風呂から上がり、浴衣に着替えて冷えぬうちに部屋に戻ろうと、廊下を歩く。
と──。
「水沢、か…。」
調理室の前に差し掛かった時、その声は止まった。
俺は思わず立ち止まり、その中を見た。
…今、確かに俺の名前が、旦那さんと女将さんの会話の中に入っていた。
「あ、あぁ水沢さん、……そうそう、ご朝食は」
「いただきました。」
…悪口を言われる事には慣れている。
筈だった。
さっき俺の苗字を呟いた女将さんの声は、良い話をする時のものではない。
…俺が、何かしてしまったのだろうか。
俺がこの宿の旦那さんと女将さんに謝らなければならない事といったら、
可愛い親戚である舞子に惚れてしまった事だろうか。
─しかしこの時の俺はまだ、謝らなければならない最大の事など全く知りもしなかった。