桜が咲く頃〜変化〜-3
次の日。
矮助は朝から、ある屋敷に伺う用事があり、昼食は鈴と一緒に食べ、午後、小春との約束の場所へ向かった。
(いないかな?
いないよな。
もう午後だもんな。
もう、いないよな?)
一人心の中でぶつぶつ言っていると
『矮助様!!』
小春が走り寄って来た。
『来て下さったんですね!?
嬉しい!』
そう言うと、矮助の胸に飛び付いた。
『こっ小春さん!?
まさか、ずっと!?』
驚く矮助に、小春は悪戯っ子のような笑顔で答える。
『私、矮助様が来るまで、ずっと待っていますからって言いましたでしょ?』
矮助は驚くしか出来なかった。
『矮助様?女の子を一人長い間待たせて、どおいうおつもりですの?』
今度は顔を膨らませて、すねたように言う小春。
『え?
いや、あの、すみません…』
慌てて謝ると
『では罰として、明日も会って下さいね』
にこっと笑う小春。
こうして何かと理由をつけては、毎日毎日会う約束をさせられた矮助。
仕事と鈴との時間の合間に小春と会うようになった。
女の子の涙に弱い矮助は、明日は会えない、その一言を言う勇気がなかった。
それと同時に罪悪感があった。
自分は鈴が好きなのに、別の女の子に会っている。
鈴にも小春にも自分の心のにも…
もう限界だった。
それはある日の夕食時のこと。
『お前、香を変えたか?』
鈴が突然聞いてきた。
『ん?いや。
変えてないけど、どうかした?』
矮助が聞き返すと
『最近、女物の香の匂いがするが、女でも出来たか?』
『!?ムゴッン…』
矮助はご飯を喉に詰まらせてしまった。
鈴は立ち上がり、障子に手をかける。
矮助は急いでお茶で流し込む。
すると
『図星か』
鈴は風呂場へ向かった。
『鈴!
待ってくれ、話を…!』
鈴は振り返ることなく行ってしまった。
『鈴!』
矮助の声は悲しく廊下に響いた…
(いけない…
このままでは、いけない!)
矮助は小春と向き合う決心をした。