歌声は絶えず今も響いてる-1
『平凡、それは退屈』
いつも誰かは思うよね。
『平凡それは幸せ』
それは主観にも依るけど、変わらない日々は刺激がないとしても
失うものがないなら、それで良いように思う。
僕はそうして今まで生きて、これからも生きるのだろう。
いつまで続くとも知れぬ日々を、ただ歩くのも悪くない─────
僕は退屈ながらも、それなりに楽しい人生を過ごしていた。
まだ16年という長さの道だけど、わりと直線的に歩んできたはずだ。
義務教育も無事に終え、高校受験も受かり世間一般で高校生と呼ばれる身分の、それだけの男。
趣味も部活も何もなく、ひたすら一日一日を生きているだけの存在。
今日という日も、漠然と続く暮らしの通過点のはずだった。
僕は学校へ向かう為に電車に乗り、いつもの駅で人の形成せる波の一部となり歩きだす。
呼吸をするかのように。
今日も昨日も一昨日も、先週も先月も同じ表情。
しかし今日は“いつもの駅”とは少し、ほんの少しだけ違いがあった。
(歌が聞こえる)
いつも通りの喧騒と、地面と靴の鳴らす音に今は誰かの歌声が混じっている。
ギターの奏でる和音と、繊細な印象を受けるソプラノボイス。
その発信元は僕が自転車を停めているあたりに座っていた。
人工的ではない黒髪は長くて肌が白い、いわゆる人形のような女の子だった。
僕にしてみれば、赤の他人である彼女はとくに気に止める存在ではなかった。
僕は彼女の近くに停めてある自転車のカゴに鞄を入れ、学校に向かうという日常のヒトコマ。
それは高校生になってから、一度も途切れなかったもの。雨が降ろうが体調が悪かろうが続いていた。
それがたった今、目の前でギターを抱いて横たわる少女によって記録は終了してしまった。
僕は道端で倒れている(であろう)はた迷惑な人を、放置して去れるほど強靭な精神は持っていないから。
かと言って、特殊能力で少女の体の悪い部位がわかるわけでもなく、情報収集を試みる。