歌声は絶えず今も響いてる-2
なるべく優しそうな声で
「どこか具合悪いんですか?」
尋ねる。
へんじがない
ただのしかばねのようだ。
とは、ならず本当に良かったと思う。
幸いなのか彼女は声をかけた途端に気が付き、白色の顔を朱色に塗り替え
「どんな歌が好き?」
と尋ねてきた。
会話のキャッチボール
開始と共に二つめの球登場。
戸惑いながらも僕は(きっと)自分に投げられた球を受け取り、投げ返す。
「平気そうだね? 歌なら〜」
と、適当に流行りのバンドの名前をあげてみた。
「そうなんだ。ところであなたは誰?」
順番が前後したが、当然の質問をされる。
僕は自分の名前と通う高校名と学年を告げた。
と同時にこのままだと遅刻する現実に気付いた。
「なるほどね。私はナオ、あなたの質問に答えるとするなら、体調に問題はない。至って平気」
ようやくボールが返ってきた。
時計が僕に焦りを知らせているので
「そっか。じゃあナオ、僕遅刻しそうだから行くね」
と手を挙げ軽やかに去る。
もう二度と会わないであろう少女に僕は律義だなー、なんて思う僕の鼓膜に
「また後でね」
そう空気の振動が伝わった気がした。僕は気のせいだと思い、ペダルを回すことに専念する。
学校は昨日までの日常と比べると、遅刻ギリギリに到着し暦の上では秋であるものの
まだまだ現役である夏の日差しを浴び、汗だくであったことを除けば
僕の日常は守られていた。
とくに何もない、学生生活を今日も過ごす。
そしてまた、いつもと同じ帰り道を自転車で駆け抜ける。
駅に着いて自転車を置きに、いつもの場所に向かうと「おっそーい!!!!」
今朝聞いたばかりのソプラノボイス。
一瞬この世界がゲームやマンガのような、現実的ながらも非現実的な矛盾した何かになっているのかと思った。
朝、ナオと名乗った女の子は僕の妄想で
今、目の前に存在している彼女も僕の妄想…
そう思い込もうとしたが、僕の肩を掴み揺さぶる手の感触は、現実世界のそれ以外だとは思えない。