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Memory
【純愛 恋愛小説】

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Memory-15

『大丈夫…』
楓を抱きしめながら、俺はそう言った。一体何が大丈夫なんだというのだろうか。まるで自分に言い聞かせているかのように、ともかく俺は何度もその言葉を彼女の耳元で繰り返した。
楓が落ち着いてから俺はそっと、抱きしめていた腕をほどき、彼女をしげしげと眺めた。楓の目と鼻は真っ赤で、瞳はぼんやりと宙をさまよっていた。
『寒…。』
思い出したように楓が言った。無理もない。俺達はずっとずぶ濡れのままなんだ。
『風呂、入るか?』
俺の言葉に、ううん、と彼女は首を横に振った。そして、
『涼介があっためてよ。』
と笑いながら、おどけたように言った。

洗濯機の回る音がかすかに聞こえる。服を全部脱ぎ捨てた俺達は、生まれた姿のまま、布団にもぐりこみ、じゃれあい、抱き合った。なめらかな肌触りがとても心地いい。俺達はベッドの上で、何度もお互いの温もりを確かめあった。
俺達は度々キスを交わしたが、それ以上の事は一度もしなかった。そこには、欲情以上に押し寄せてくる愛しさがあったのだ。
眠りにつくちょっと前に、手をつなぎながら楓が独り言のようにつぶやいた。やっぱり涼介と会えてよかった、と。こっそりと盗み見た彼女は、とても優しく温かい横顔をしていた。俺は多分一生この彼女の横顔を忘れない。

―そして、楓が俺を忘れたのはちょうどこの日から1ヶ月後の事である。


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