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Memory
【純愛 恋愛小説】

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Memory-10

弱々しく鳴くセミの声が、夏の終わりを告げている。残暑といえども、それなりに暑い日差しの中を俺は自転車で進んだ。段差にぶつかる度に、きっと宿泊先の宿のチケットがカバンの中でゆれていることだろう。
予定は大きく変更して、俺達は海のそばにあるホテルで一泊する事になった。すべて楓母のおかげだ。男と女がホテルで一泊するという意味を、どうとらえているのかは分からないが、感謝すべき事に変わりない。
楓は家から少し離れたコンビニの前で待っていた。楓母以外の家の人には、俺と海に行く事は秘密にしてあるらしい。まぁ当然だわな、と俺も思う。
『遅いっ!』
楓がケータイのサブディスプレイを一瞥してから、不満そうに俺をみる。もちろん、いつもみたいに頬を膨らませて。
『ごめん、ごめん。』
俺は顔の前で片手をたてる。
『ちょっと重そうな荷物を抱えて歩いているお年寄りがいたもんだから、俺が荷物を』
『分かった分かった。』
真面目そうな顔を作り喋る俺の言葉を、楓は遮った。
『ノリわりぃな〜。』
『30分も遅れてきたくせに、相手にノリを求めないのっ。』
半ば呆れながら楓は笑った。
『ともかくっ!早く行こうよ。』
楓が俺の肩をぽんっと、軽く叩く。
『本当に早く行かないと日が暮れるぞ。』
『自分が遅れてくるから悪いんでしょっ。』
楓は不満を含んだ笑いをしたが、数秒後にはちゃんと荷台に座っていた。

『すげ…。』
圧巻された俺は、思わず溜め息混じりにそうつぶやいた。扉の先には"貴族"の一室とでも言うのだろうか、部屋の造りは"超"がつく程の豪華さだ。シャンデリアに少し似た照明が部屋を、ほんのりとオレンジ色に照らしている。そして何と言っても、海を一望できるよう、壁一面ガラス張りになっているのにはどきもを抜かれた。
『お荷物こちらに置いておきますね。』ベルボーイの言葉で俺は我に返る。
『あ、はい。』
俺の言葉と共に、荷物は地面に置かれた。
『あちらのテーブルに置いてあるプレートに、ルームサービスの詳細が書かれておりますので、ご用の場合はなんなりとお申しつけ下さい。』
『分かりました。』
『では、ごゆっくり。』
ベルボーイは一礼した後、部屋を後にした。
楓は手慣れた様子で冷蔵庫からジュースを取り出し、俺に差し出す。
『自転車お疲れ様。』
『おぅ。』
差し出されたソレを受け取り、俺は部屋を改めて見渡してみる。
『なぁ…この部屋一泊いくらするんだ?』
素朴な疑問を楓になげかける。この部屋を準備してくれたのは、こんな部屋に泊まれるのはもちろん全部楓の母のおかげだった。
『さあ?15万円くらいじゃないかしら。』
さらっと言った15万という言葉に俺はギョッとする。
『俺本当に金一銭も出さなくていいのか?何かスゲー申し訳ない気がする…。』
『いいのいいの!お母様が勝手に決めた事なんだから。』
心もとなそうに言うと、楓は俺に安堵を促すように笑いながらそう言った。
『あ、お風呂の前に浜辺でも散歩する??日ももうすぐ落ちるし、花火持ってさ。』
楓は顔のすぐ横で、特大花火セットをちらつかせた。2人で完全制覇するのには、何時間もかかりそうなデッカいやつ。
『いいね。確かフロントで、バケツも借りられるはずだったよな。』
俺はバカでかい花火セットをかつぎ、部屋を後にした。

『なあ、これ全部やるわけじゃないよな??』
エレベーターを待つ際に楓に尋ねる。
『へ?しないの??』
楓はビックリしたように言う。いや、こっちがビックリなんだけど…。
『…………。さ、エレベーターか着きましたよ〜。』
『あ、無視するなー!!』
そそくさとエレベーターに乗り込んだ俺を、小走りで楓が追った。


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