夏の始まり、夏の終わり(後編)-1
私は一人、地方のお寺を訪ねた。
私は、そのお寺の小さな駐車場に車をとめた。
赤い小さな車。
後ろの座席には、後ろが見えないくらいの荷物が積んである。
とはいっても、この歳の女にしては少ない荷物かもしれない。
ちゃんと家具を用意しろとか…
支度というものがあるだろうとか…
そんな両親の口うるさい言葉も、私を愛してくれているからこそなのだろう。
私に離婚歴があることを、両親は知っていた。
それでも…
私が再び、結婚すると言い出すまでは…何も言わなかった。
「昔のことは、話したのか?」
父は、少しだけ心配そうに言っていた。
「うん」
私は、そう短く答えた。
・・・・・・・・
あの後…夏の終わりを向かえ、日差しが少しだけ弱まった頃…
私は再び東京を訪れた。
今度はホテルではなく、彼の部屋へ泊まることになっていた。
しかし、私はまだ怖かった。
田舎町ではあれだけ、今の心だけで向き合えたのに…
現実の私を受け入れてくれるのかが怖かったのだ。
彼の部屋に行く前に、話さなければならない。
私はそう思った。
そして、もし…
私の過去が拒まれたなら…
そのまま、東京を後にしようと。