夏の始まり、夏の終わり(後編)-3
「見透かされて怖いのは、私の方よ」
私は口火を切った。
「ちょっと待ってね。僕も落ち着いて聞きたいから」
彼は、私が話そうとするのを一端制し、店へと歩き始めた。
彼が連れてきれくれた店は、こじんまりとして…
それでも活気溢れる韓国料理の店だった。
店主の女性は、話し方から察するにその国の女性のようだ。
「ここの鍋ね、辛いんだけど大丈夫?」
「うん」
私は頷く。
「すごく汗をかくんだけど、それが楽しくて」
彼は、まるで少年のような笑顔でそう言った。
「え、化粧が落ちちゃう」
私は本気でそう言った。
「すっぴんの方が、見慣れてるよ」
彼は穏やかな口調だった。
注文した鍋は、見るからに辛そうな赤い色。
食べ始めて数分もしないうちに、二人とも汗を流し始めた。
「あの日も汗だく…だったよなあ」
彼は私に再び会った、夏の長い道のりの話をし始めた。
「正直ね、本当に会えるとは思っていなかったんだ」
彼は、額から流れる汗を手の甲で拭いながら話し続ける。
「私も」
自分から拒んでおいたくせに、それでも本当は彼に逢いたかったのだから。