ウソ×B-3
「小松のとこに行きたいならきっちり別れておいで」
「えぇっ、睦月はいてくれないの?」
「何であたしが行かなきゃいけないのよ」
「だって呼び出したのは睦月じゃん」
「あんたがあんたの男と別れるんでしょ?だったらあんたが話付けなさいよね」
「あぁああぁ…」
「ちゃんと別れたら報告メールちょうだい」
「オニ!」
憎まれ口を叩いても、心の中では感謝していた。
きっとあたしはこれくらい強引に背中を押されない限り動かない。それは睦月が一番よく知ってると思う。入社以来毎日顔付き合わせて一緒に働いて遊んで…
「睦月」
「ん?」
「…ありがと」
口を尖らせてそう言うと、ちょっと困った顔をして笑う。
だからあたしも笑った。
今の時期は比較的会社は暇な時期で、8:00になると夜勤組以外は帰宅している。事務所なんかは完全に無人。
あたしはなんやかんや雑務を見つけては主任が来るまで時間を潰していた。
現在、7:45。
『グウゥ…』
腹が鳴る。
ちくしょう、腹減った。
あと15分あるな。
机の引き出しから非常食のカップラーメンを出した。
シリアスな場面に空腹は辛いよね。
事務所奥の給湯室へ向かい、ヤカンを火にかけた丁度その時
「何だよ、話って?」
主任の声が聞こえた。
ハッとして振り向いても誰もいない。
「これ、もういらないんで」
もう一人分、声がする。
先約があったのか。
…ていうか、この声
そっと事務所内を覗く。
「…」
やっぱり、小松の声。
何で?
主任と小松のツーショットなんて見た事無い…
『チャリン』
そんな音と共に小松の手から主任の手に渡った物に見覚えがあった。
あたしの部屋の合鍵だ。
「お前に持たせたままだったか」
主任はそう言って合鍵をポケットにしまう。
持たせたって、何?
「この前松田の部屋に入れなかったんだぞ」
「…別れたいんじゃないんですか」
「いざ手放すとなると惜しい気がしてな」
「転勤するんでしょうが」
「ま、ギリギリまでな」
この二人は、さっきから何の話をしてるの?
転勤とか、別れたいとか…
「しかし、お前も上手くやったな」
「そっすか?」
「俺が教えた攻略法のお陰だな」
「…ですね」
攻略法?
「松田は深酒すると記憶が無くなるから、連れ込みやすかっただろ」
「…っ」
声が出そうになって、慌てて自分の口を押さえた。
ドクンドクンドクン…
心音が、外に洩れそう。
あたしは今、聞いちゃいけない話を聞いてる。
知らなきゃ良かった事を知ろうとしてる。