『僕の瞳に映るのは……』-8
(そっか……智則にはもう、あたしが見えないんだね……)
「嘘だろ!?だって、さっきまではちゃんと……」
(きっとね、お別れの時が来たんだと思うの……)
静かに……けれど、しっかりとした口調で茜は言った。
(あたしね、思い出したの……だからもう、行かなくちゃ……。でも、最後に智則に逢いたくて……)
耳に響く茜の声。だけど、微かに震えていた。
「よ、よかったじゃん!これで…もう、独りじゃ……なくなる…んだろ?」
笑え!笑えよ僕!!
たとえ姿は見えなくたって、笑顔で送ってあげなきゃ……それが最後に僕が茜にしてあげられるコトなんだから……
(離れたくないよ………。あたし、智則と居たい……逝きたくないよ……)
茜の泣き声が僕の胸を掻き毟る……
目には映らない。だけど僕には見えていた。泣きじゃくる君の姿が……
そして、僕の心は悲鳴の様な叫び声をあげる……
なんでだよ!最後の別れの時ぐらい逢わせてくれよ!!それぐらいの我儘聞いてくれたっていいだろ!?
悔しくて悔しくて、堪らなかった。だから僕は大声で叫ぶ。
「茜!!こっちに来いよ!僕のところに……」
無駄だってわかってた。
無理だってわかってた。
だけど僕は精一杯、両腕を拡げて叫ぶ。
そして、突然僕の胸に衝撃が走った。僕はその見えない何かを両腕でしっかりと抱き締める。
それは小さくて、柔らかくて、小刻みに震えていた。そして、僕の胸の方から啜り泣きが聞こえて来る。
これは現実なのか?それとも……そんなの、どっちだっていい!!
ゆっくりと霧が晴れて行き……そして、そこには君がいた。
「…泣くなよ、茜……」
胸が詰まる、声が震える。今、君が僕の腕の中に在る……それだけでいい。
やっと……やっと抱き締めてあげられた、君を……
「夢…なのかな?それでもいい……智則に抱き締めてもらえるなら……」
僕の中で君は呟いていた。
なぁ、神様。これはアンタが仕組んだのか?最後の粋な計らいって奴なのか?
けど、恨むぜ。こんな事されたら余計に切なくなるって、わかってないだろ?