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『僕の瞳に映るのは……』
【純愛 恋愛小説】

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『僕の瞳に映るのは……』-9

「あのね……事故だったの。貴方と同じ様に……」
「え?」
「あたしも事故に遭ったの。そして、気付いたらあそこにいた……。あたしね智則に逢えてよかった、心細かったから。でも、今は……。ずっと貴方といたいの……」

こんな時なんて言えばいいんだろ。何も浮かばないよ。だから、せめて想いが伝わる様に僕は華奢な身体をしっかりと抱き締めた。

「ねぇ、智則…キスして……」

不意に茜は僕を見上げて呟く。

「茜、どうしたんだよ急に……」
「時間が無いの。見て……」

そう言って差し出した茜の手を見て、僕は目を見開いた。何故なら、その小さくて柔らかい手は輪郭だけを残して透け始めていたから……

「あ、茜!!」
「最後に一つぐらい我儘を言ってもいいよね?想い出をちょうだい……」

噛み締める様な茜の台詞。言葉なんていらない。僕は頷いて茜の両頬に手を添えた。

「茜……大好きだよ。」
「あたしも智則が大好き……」

そして僕等は、静かに唇を重ねていった。ゆっくりと時が流れていく。

「あたし、絶対忘れないから智則のコト……」

徐々に透けていきながら茜はそう言った。けれど僕は、やっぱり何も言えない。だから精一杯の笑顔を作って頷いた。

「また、逢えるよね。」
「ああ……」

僕の言葉に返す様に、茜も懸命に涙を笑顔に変えている。だってお互いにわかっているんだから……

もう逢えないってコトを……

消えゆく直前、何かを思い出した様に茜は口を開いた。

「最後に教えるね。本当のあたしの名前は……」

だけど、その先の言葉は聞こえなかった。

「何だって?聞こえないよ!」

僕の言葉も、もう聞こえていないのだろう、涙を堪えた笑顔のまま茜は手を振った。あの時と同じ口の動き、だからそれだけはわかった。

(…バイバイ…)

「行くな!!行かないでくれよ茜!!」


淡い光りの瞬きを残し、そして僕の前から君はいなくなった……

「ばかやろう……茜は茜だよ。」

しばらくそこに佇んでいた僕は、やっとのコトでその一言を呟いた。涙を堪える様に顔を上げると頭上には満天の星空が瞬いている。まるで何事もなかった様に……

足元の鞄を拾い上げて僕は公園を後にする……。そして出口まで来た僕は、一度だけ振り返った。

僕の好きな場所……

だけど今日から僕にとって多分、一番切ない想い出の場所になるんだろう。

僕は小さな溜息をついて家路についた。

二度と振り返る事なく……





END


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