『僕の瞳に映るのは……』-5
「そんなにからかうなら、違う名前を考えるよ!」
恥ずかしさで堪らなくなった僕は、思わず叫んでしまった。
「やだ!!だって、凄く気に入っちゃったんだもん。ねぇ…もう、からかわないから呼んでみて……。その名前で……」
期待に満ちた彼女の眼差し……。さっきまでと違い、どこか楽しげに笑っている。その仕草が堪らなく可愛くて、僕は愛おしむ様に彼女の名前を唇に乗せた。
「初めまして、茜…」
彼女……茜は、しばらく黙ったまま僕を見つめていた。
……ぽろ……ぽろ……
突然そんな茜の瞳から雫が溢れていく。それを見た僕は、どうしていいのかわからずにオロオロするばかりだった。
「反則だよ、こんなの……」
ようやく落ち着いた彼女が最初に口にしたのは、その一言だった。
「反則って?」
僕には茜の言葉の意味がわからなかった。
「だって、彼女に話し掛ける様な言い方するんだもん。あんなに優しく言われたら、少しツライな……」
「そんな人いないよ。」
軽く首を振りながら僕は呟く。
「でも、その人のコト好きなんでしょ?だって、あんなに優しい顔で呼ぶんだから……」
好き?
そうだね。きっと好きなのかもしれない……
「告白しないの?」
彼女の言葉に僕は小さく首を振った。そんなの無理に決まってるから……
「どうして?きっと上手くいくわ。だって、智則っていい人だもん。」
貴方……
智則くん……
智則……
君は気付いているんだろうか?僅かの間に僕の呼び方が変わって、その度に僕の心が揺れてる事に……
そして、僕が告白なんて出来る訳ないって事に……
「あたし、変なコト言っちゃった?」
心配そうに聞いて来る茜に僕は笑って首を振る。
この想いに気付かれない様に……