『僕の瞳に映るのは……』-4
「貴方、変わってるわね……。幽霊に名前教えちゃうなんて……。普通はしちゃいけないのよ?」
「なんでさ?」
「幽霊に名前教えちゃうとね、取り憑かれちゃうのよ?」
僕は今まで、そんなモノの存在を信じちゃいなかった。だから当然、対処の仕方なんて知る筈も無い。
「なんてね……。正直に言うとあたしもわからないんだ。どうやったら取り憑けるかなんて……」
うろたえる僕を見て、溜息混じりに彼女は言った。そして再び街並みに目を向ける。初めて見た時と同じ様な哀しみを携えた笑みのまま……
「名前、思い出せないの……。いつからここにいるのかさえ……」
次第に藍色に変化していく街並みを見つめながら、不意に彼女はそう呟いた。そしてまた僕の方に顔を向けて
「笑っちゃうでしょ?記憶喪失の幽霊なんて……」
そう言って淋しげに笑った。
……ズキンッ……
その表情に胸が痛む。
「『そうだね』なんて言わないよ。そんなコト言いたくないから……」
いつもと違って、何故かスンナリと言葉が出た。それは、きっと必死だったからかもしれない。何故なら彼女に笑って欲しかったから……
「じゃあさ、あたしに名前付けてくれないかな?貴方の好きな名前……」
突然彼女はそんな事を言い出した。僕は頷いた後、少し考える素振りをしてから思い付いた名前を口にする。本当は、初めて君を見た時から感じてたイメージなんだけど……
「……茜……」
僕が答えると彼女は、しばらく黙った後に僕を見て、にっこりと笑った。
「茜……うん、素敵な名前だね。あたし気に入っちゃった。だけど、どうして茜なの?」
茜日に映える横顔が、とても美しかったから……
だけど、そんな事言えなくて僕は口篭ってしまう。
「ひょっとして、智則くんの好きな人の名前?」
ドキンッ!!
彼女にそう言われて一瞬、胸が激しく鳴った。
好きな人の名前?
よくわからないけど、何故か激しく胸が高鳴る。
顔が熱い……
「彼女?」
「ち、違うよ!!」
「じゃ、片思いなの?」
ドキンッ!!
彼女の言葉に、いちいち僕の胸は反応する。顔から火が出そうだ……