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願い
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願い-11

その年、流行病が街を襲ったという。薬による初期治療が上手く行けばそれほどまでに脅威ではない、けれど肝心の薬が足りなかったのだ。数の限られた薬は価値が瞬く間に上がり、それこそ貴族や上級高官の手にしか渡らない程の高値に膨れ上がっていた。
 薬が手に入らない者たちが治る筈の病で死んでいく、そんな理不尽な現実に民衆の怒りは爆発し、暴動がおきるのも時間の問題だった。
 責任から逃れたいもの達は口を揃えてこう言った。

「ここまで病が広がったのは魔女の呪い所為だ」

 噂は巡りほどなくすると偽られた事実となり、そしてそれは人々に狂気を生む。
 結局誰かの所為にして逃げたかったのだ、そして白羽の矢がたったのが「人喰い魔女」ただそれだけの事だった。仕方のないことだよ、と魔女は笑うだけだった。


 人喰い魔女と畏れられた女の結末は火炙り。
 死なないと言われた体は炎で朽ち果て、魔女はただの黒い炭になった。

「あぁ……これでやっと私は死ねるのね」


 街に降りてこれ以上厄災を持ち込まれては叶わないと、魔女は自宅の前で縛りつけられ火が放たれた。
 奴らには見えなかっただろうけど最後に魔女の唇が連れて行けなくてごめんよと呟いたを私は見た。





 私がまた独りになって、一体どれ位の時間が経ったのだろう。
 私の体はもうボロボロで、腕は左手、脚は右足だけになっていた。
 鏡は煤暮れになってうまく見えなかったけれどきっと顔もボロボロだ。

 いつか雨風で風化して私は人形ですらなくなる。
 でも、それはどれくらい先のことだろう。
 もし仮にそれが明日だとして、風化して形を保つことすら出来なくなったら私はどうなるのだろう。

 たった一枚の布切れになってそれが鼠に食いちぎられるまで私はこのままなのだろうか。


 ポツリポツリ


 小さな雨粒が頬に当たる。老朽化の進んだこの家は既に雨風の浸食にやられて屋根は本来の役割を果たしていない、柱もミシミシと音を立てることが多くなった。この屋敷はやがて崩れてしまうだろう。



 でもそれは何時のことだろうか。

 この体が朽ちるのが早いのか。

 この屋敷が朽ちるのが早いのか。

 あぁそれともこの世界が終わるのが早いのか。

 私はいつかやってくる終わりを待ちながら、変わらない風景を見続ける。
 私はその時初めて思った。

 死にたい、と。




 END


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