陽だまりの詩 17-4
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翌日は、久しぶりに実家に足を運んだ。
母さんはどうなっているだろうか。
久しぶりにキーケースから実家の鍵を取り出すと、ゆっくりと回した。
「…ただいま」
忌まわしいが懐かしい家の匂い。
「……」
玄関を出てすぐの部屋を覗くと、真っ先に仏壇が目に入った。
部屋の電気を点けて、仏壇の前に座る。
線香をあげて長い時間拝む。
美沙、そっちでは父さんに会えたか?
俺は頑張ってるから心配するなよ。
父さんも、美沙をよろしく。
それだけ頭の中で呟くと、居間へ向かった。
「……なんだ?」
俺の最後の記憶では、居間もぐちゃぐちゃに散らかっていたはずなんだが…
居間はかなり掃除が行き届いていた。
「まさか…あのまま狂って家にヘルパーを呼ぶようになったんじゃ…」
「そんなわけないでしょ」
「っ」
そこには、雰囲気の変わった母さんが立っていた。
「二階の掃除をしていたから驚いたわ」
「……なにがあったんだ?」
「もう十年以上になるわね…春陽、今までごめんなさい」
母さんは床に膝を着いて頭を下げた。
「……止めろよ。今さら」
腸が煮えくりそうになるが、それは何故か一瞬のことだった。
「わかってる。けど…」
「頑張ってんじゃん」
俺は何故か、励ましていた。
「…春陽」
「美沙が死んで、目が覚めたか」
俺は何故か、笑っていた。
「……母さんは結局、美沙に謝ることも、どうすることもできなかった…」
「…ああ、それだけは忘れないでくれ」
そうか、美沙が…俺に許せって言ってるんだな。
先ほどから感じる違和感は、きっとそうなのだと考えることにした。
「美沙には毎日、謝ってるの」
母さんも、変わることにしたんだな。
まったく、おせーよ。
「……美沙な、仲直りしてもいいって言ってたよ」
「え?」
「あたしが大人になったら、きっと話せるって言ってた」
「……そう……美沙…ごめんなさい…」
母さんはうずくまって泣き出した。
それから少し話して、俺は実家を出た。
なんだか俺の気分は、喉に突っかかったものが抜け去ったような感じだった。
俺達一家の歯車は、大きな代償を払いながらも、またこうして少しずつ回り始めたのだった。