笹沢瀬里奈の悩み 〜Love trouble〜-3
その日のスケジュールが完了してから、美弥は輝里を誘って甘味処に行った。
合宿中だし夜間の外出は駄目かと思ったが、他のマネージャーが『行って来おおおおおいっ!!』と気前良く追い出してくれた。
この際だからと、おいしいと評判の甘味処へ行く。
席に落ち着くと美弥はプリンアラモードに輝里は白玉善哉を、それぞれに注文した。
同い年の乙女同士、注文した物が届く前でも届いてからも、話の種には事欠かない。
甘い物を食べながらの話が盛り上がる中、美弥は機会を狙って切り出す。
「輝里ちゃんって、高由君が好きでしょ?」
美弥がそう言うと、輝里はあたふたし始めた。
平静を取り戻そうとしてか白玉を噛まずに飲み込んでしまい、派手に噎せる。
噎せるのが落ち着くと、輝里は恥ずかしそうに顔を伏せた。
「……そんなに分かりやすかった?」
少しつっかえながら、輝里はそう尋ねる。
「うん。タオル渡す時の態度で、一発。あぁ、輝里ちゃんって高由君が好きなんだぁって」
美弥の言葉に、輝里はますます顔を伏せた。
「ね……神社のお祭り、一緒に行かない?」
「え?」
美弥はにんまり笑う。
「私は龍之介と一緒に行くから、輝里ちゃんが……って、どう?」
意図を察すると、輝里はばたばた手を振った。
「駄目駄目駄目!恥ずかしくってできっこない!」
美弥はほろ苦いカラメルソースのかかったホイップクリームをスプーンで掬い、ぱっくり口に入れる。
「うぅん……羨ましい」
思わずそう呟くと、輝里は驚いた顔をした。
「何が?」
今度はカラメルソースのかかったプリンにホイップクリームを乗せ、幸せそうに頬張る。
「私は……龍之介と、そういう時期が過ごせなかったから」
苦笑混じりに、美弥は告白した。
「嘘っ!?」
あんまり驚いたのか、輝里は手に持っていたスプーンを取り落とす。
「だ、だって二人ともすっごい仲良くてラブラブで……遠くから見てて、羨ましいって思ってたのに……」
「お互い意識してドキドキして、でも楽しい時間って……過ごしてないのよね」
「嘘……じゃ、どうやって付き合い始めたの?」
美弥はにっこり微笑んだ。
「知りたい?」
「うん!」
「元々はねぇ、私がちょっとしたトラブルに巻き込まれちゃって……縁があって、龍之介がガードマンをしてくれる事になったの」
「ほぅほぅ」
輝里は思わず身を乗り出す。
「それまではね……私、龍之介が苦手だったんだ」
「ウッソォ……!」
衝撃の告白に、輝里は目を見開いた。
「だって龍之介って、たいていの事は器用にこなせるんだもん。なーんか苦手だったのよねぇ」
「へぇ〜……」
「でも毎日きちんと送り迎えしてくれる時にしてくれるすっごく面白い話とか……そういう中身を見てるうちに…………惚れちゃったのよね」
「……外身は?」
「それだけじゃあ好きにはならなかったわね」
「……」
きっぱり断言され、輝里は沈黙する。
「で、一ヶ月くらいしてからかな。ガードマンの期限が終わりそうな頃に、ちょっと嫌な目に遭っちゃって……助けてくれた龍之介に、ぽろっと告白しちゃったんだ」
美弥は照れ笑いをした。
「今から思うと、ショックで相当混乱してたんだろうなって。告白してから、凄く後悔したもん」
「な、何で?」
「だって……龍之介の気持ち、全っ然知らなかったもの。その人を好きになって、これから色々親しくなろうとする前に告白しちゃったの」
輝里は再び目を見開く。
「そしたら龍之介の方は、きちんと好きだって言ってくれて……嬉しかったなぁ……」
そこまで言ってから、美弥ははっとした。
「あ、ごめん……ノロケ話になっちゃった」
「ううん、いいよ。興味ある……もっと聞きたい」
「うん、それじゃ……どこまで話したっけ?」
「両想いになったとこ」
「あ、そうそう……それで………………話していいのかなぁ?」
その言葉に、輝里は眉を寄せる。
「ここまで喋っといて秘密にするなんて野暮な事、言いっこなしよ」
そう言われると、美弥は肩をすくめた。
そして、声をひそめる。
「……最後までしちゃったのよね」
「…………………………」
刺激が強過ぎたのか、輝里は頬を真っ赤に染める。
「つまり、あの、えっと……」
「龍之介とセ……」
「言わないで言わないで」
ばたばた手を振りつつ、輝里は言った。
「そっかぁ……美弥ちゃんは、高崎君とシてるんだ……」
「輝里ちゃん……」
美弥の声に、輝里はこっくり頷く。
「それは未知の世界なんデス。」
輝里の正直な告白に、美弥は思わず微笑んだ。