夏の始まり、夏の終わり(前編)-13
「やめませんか…」
男は、それでも怒りの全く無い声でそう言った。
「この行為から得るものは、あるのでしょうか」
私は何も答えられなかった。
私のような、頭の悪い人間でも分かる答えだったからだ。
得るものなど、何もない…
私は、彼から体を離し…彼の横に体を横たえた。
彼は本当は、怒りで満ちていたのかもしれない。
それでも、私が隣に身を置くことを許してくれた。
私も、酒の酔いからくる眠気に勝てず…目を閉じた。
その頃には、意識も遠退き…私の体は沈むように重くなっている。
何故だか分からないが、私は…薄れ行く意識の中で…
亡くなった男の子の話をした気がする。
好きな人がいて…でも私が浮気して…
もう亡くなったんです…
その先には、深い眠りが待っているだけだった。
凍りつく空気は、寒さからなのか
それとも、自分の心そのものなのか
私には、分かるわけもなかった。
・・・・・・・・・
仕事で来るとはいえ、男は二度と…私に笑顔は見せてくれないと思っていた。
私は、どう謝ったらいいのか分からなかった。