FULL MOON act4-12
「安西さんって、彼氏と別れたんじゃないんですか?」
「…?」
絵里ちゃんは聞いたこともないような冷たく、低い声で問う。
私は少し驚く。
「それ誰につけられたんですか?」
私のキスマークを指差す。
私が答えられずにいると絵里ちゃんは話し出す。
「私、今日バイトの前に高坂さんと安西さん見ました。」
「あ…」
見られちゃったのか…。
「はじめ、間違いかと思いました。高坂さんは彼女いないって言ってたし、安西さんは彼氏と別れたばかりだし。……でもそれ、誰ですか?つけたの。」
「………。」
「言えない人なんですか?」
「…高坂、さん…だよ。」
絵里ちゃんは少し着替ていた手をぴたりととめるも、今度は急いで着替えはじめる。…まるで早くこの場から去りたい、とでも言うように。
「…二人は付き合ってるんですか?」
「…うん。10日前くらいから。」
「…高坂さんは彼女いないって言うし、安西さんは別れたばっかりなのに…どちらにしろ最低な付き合いですね。」
「…そんな…確かに別れたばっかりだけどいい加減な気持ちじゃ…」
「それにこの間私が付き合いたいって言ってたの、どういう気持ちで見てたんですか?…私浮かれて…バカみたい…。」
言葉の語尾が震えてる。
…泣いてる……?
「絵里ちゃんっ…ごめ…」
絵里ちゃんは急いで荷物を持ち、バタン!!と盛大にドアをしめる。
「絵里ちゃん!」
急いで追うも、追いつかず。見えるのは揺れるドアだけ…。
(絵里ちゃん…泣いてた…。)
今日だって、きっと私達を見たから元気がなかった。
(どうしよう…。)
悲しい思いをさせた…。絵里ちゃん、lunaやめちゃったらどうしよう……。
(どうしようどうしようどうしよう…!)
夏でもないのに、冷や汗がとまらない。