ウソ×@-4
「早く中行こうぜ」
「こここまつっ」
「何」
「あたしパスタ食べたい!」
「は!?」
「いいじゃん、パスタ。あたしご馳走するから!ね!」
「えぇ〜、俺ラーメンがいい」
「パスタ!!ほら、早く」
無理矢理回れ右をさせてグイグイ背中を押して車に乗せた。
「ラーメンが良かったのに」
ブツブツ文句を言いながらもエンジンをかけ始める。
「まぁまぁ」
軽く宥めながら自分も助手席に乗り込んだ。よし、鉢合わせは免れた。ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、バックミラーを調節していた小松の動きが止まった。
「…小松?」
何か見え―
「!!」
慌てて振り返ると、店内から出て来たばかりの小松の彼女が丁度あたし達の車の真後ろを通り掛かっていた。男の人と腕を組んで楽しそうに車に乗り込む姿がバッチリバックミラーに写り込んでいる。
「…」
「…」
最悪。
しばらく続いた重い沈黙を破ってくれたのは小松。
「あー、そりゃ電話に出ないわけだ」
ははは、と、軽い笑いも付け足される。
「何で怒らないの…?」
「えぇ?」
「何でヘラヘラ笑ってんの?飛び出してってぶん殴るとかすりゃいいじゃん!」
「…松田?」
他人の失恋に直面したのは初めてだ。自分が失恋した時とは違うけど、悲しい気持ちは同じくらい深い。
「何で松田が俺の彼女知ってんの?」
「…」
ダッシュボードの前に置かれた携帯を指差した。
「あぁ、さっき拾った時に見たのか」
「…ごめん」
「いいよ、誰のか確認する為に見たんだろ?」
「ごめん、小松」
「だからいいって」
「あたし知ってた」
「何を?」
「あたしが小松の携帯拾ったの」
「うん?」
「ほんとは小松が事務所に来る前に拾った。そしたら彼女から着信がきて、出たら…別れ話された」
「…」
「あたしが何か言う前に切れたの!でもその事どうしても小松に言えなくて、ごめんなさい…っ」
ここまできて泣きながら謝るくらいなら、最初から素直に話すんだった。その方が、自分の彼女のデート風景見させられるより小松の傷も浅かったかもしれないのに。
「松田」
「…」
「飲みに行こ」
「へ」
「よし、決まり!嫌な事は酒の力で忘れちまえ」
そう言って車を発進させる。
小松はあたしを責めなかった。傷付いてるのは自分なのに泣いてるあたしに気を使う。
それが嬉しくて申し訳なくて、それ以上に小松と一緒にいるのが思いの他楽しくて、普段では考えられないくらいの量の酒を飲んだ。
そのうち、いい気分になって景色がユラユラ揺れ始めて、
「まっだ…?大丈…」
小松があたしを呼んでる声がする。でもすぐに何も聞こえなくなった。
あー…、頭痛い。
昨日どれだけ飲んだんだろ。会社行きたくないなぁ…
目を閉じたまま手探りで枕元にあるはずの携帯を探して、
『むにっ』
「え?」
右手が何かを捉えた。
なんだ、これ。
ペタペタと感触を確認してると、
「う…ん」
それは掠れた声を出した。
…アルコールが抜けていくのをリアルに感じる。
まさか。
まさか―
恐る恐る声がした方に目をやって、嫌な予感が的中している事を知り軽く貧血。