投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

ウソ
【その他 恋愛小説】

ウソの最初へ ウソ 2 ウソ 4 ウソの最後へ

ウソ×@-3

「…ふん」
…ひどいのはあたしも同じか。
真相を知ってるのに教えない。別れ話を聞いてしまった事を咎められるのが嫌で自分の身を守る方法ばかり考えてる。
小松に返そう。
手の中の諸悪の根源をギュッと握り締めて重い腰を上げた。
「松田」
トイレを出た所に小松が立っていた。ずっと小松の事を考えていたせいか、顔を見た瞬間何故か赤面してしまう。
「あんまり遅いから便器にハマってんのかと思って…って」
そしてあたしの右手に握られてる携帯に気が付いた。
「あの、これ…」
震える手を抑えて差し出すと、
「ありがとう!」
「…」
満面の笑みで手に取った。
「なんだ、女子便所に落ちてたんだ!どうりで見つからないわけだよ」
…なわけないじゃん。あんたは女子便所に落とした覚えがあるのか。
そんな脳天気野郎は携帯を開いて
「あ、まだ電話きてないわ」
と、着信履歴を調べる事無く笑って自分から電話をかけ始めた。
嫌なドキドキが消えない。
呼び出し音が留守電に切り替わる音がこっちにまで聞こえてくる。それを何度か繰り返して、パコンと携帯は折り畳まれた。
「こま…」
「なんか、出れないみたい」
そう言って笑う小松を見て胸がズキンと鳴った。
「まぁ、いいや。ありがとな、松田。さぁ約束の飯の時間だ、何が食べたい」
「…いらない」
首を横に振った。
お礼なんていい。あたしは何もしてない。苦しくなるから、笑ってありがとうなんて言わないで―
「遠慮すんなって。よし、お兄さんが美味いラーメンを食わせてやる」
小松はあたしの手首を掴むと、テキパキと事務所の戸締まりを済ませて半ば強引に自分の車にあたしを乗せた。
「ねぇ、あたし本当にいいから」
「いいよ、ご飯抜きで頑張ってくれたご褒美」
「…」
だから、笑うなよ。
本当は彼女と連絡取れなくて悲しいくせに…
なんだろ、さっきから胸が痛い。小松が笑う度に一本ずつ針で刺されるみたい。
「でさ、そこの塩ラーメンが絶品で―」
あたしの心境なんてまるで気にしていないこの男は呑気にラーメンの説明をしてる。
罪悪感が消えないからあたしがおごってやろうかな。それでスッキリするわけではないけど、何もしないよりはマシだ。
程無く車は停まり、二人揃って降車した所で小松はまた携帯を開いた。
「松田、悪い。ちょっと電話してきてもいい?」
「うん…、いいよ」
愛想笑いで見送った。
彼女にかけるんだ。何度リダイヤルしたって無駄なのに。
店の壁にもたれるとダクトを通してラーメンの良い匂いが鼻をくすぐる。気持ちはブルーなのにお腹は減るんだよな。
ちらりと店内を覗いて見た。
遅い時間でもほぼ満席。美味しいって言うのは本当らしい。
「…あれ?」
一通り見回した後、お会計をしてるカップルがフッと視界に入った。女の子の方どっかで見た気がする。結構綺麗な…、どこだっけ、つい最近―
「お待たせ」
背後から聞こえた小松の声にハッとして振り向いた。
あの子、小松の待受画面だ。って事は彼女?ウソだ、そんな偶然ってある?


ウソの最初へ ウソ 2 ウソ 4 ウソの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前