陽だまりの詩 15-6
***
忌引きはもちろん、有給さえもとっくに使い切ってしまった。
今は体調不良を理由に会社を休んでいる。
美沙のことはもちろん知っていたし、俺は入社以来、ほとんど休まず仕事に打ち込んできたこともあり、俺が長年世話になっている上司はどうやら目を瞑ってくれているらしい。
だが、もうそれも限界だろう。
月曜からは仕事に出ないとだめだ。
だが、体が動かない。
腹が減れば適当にあるものを食い、眠くなれば寝ていた。
葬儀の後は毎日そうやって過ごしている。
ひとつ気がかりなのは、奏だった。
大丈夫なのだろうか。
こういう状況に陥っても、奏のことを心配している自分は、本物に奏が好きなのだと自覚した。
でもだめだ。
これ以上何も考えられない。
俺は今日何度目かの眠りに落ちていった。
***
翌日、日曜の朝の出来事だった。
いつかのように部屋のチャイムが連打される。
「美…沙…!?」
俺は飛び起きる。
だが足に力が入らず、何度もつんのめりながらドアを開けた。
「……ひでえ顔だな」
「……おと…さ…」
肩の力が抜けたと思うと、その場にがっくりと膝をついた。
お父さんは大きなダンボールを二つ抱えて入ってきた。
お父さんは俺の横をすり抜け、リビングの床にダンボールを置いた。
「……予想以上に酷いぞ、小僧」
炊事場は汚れた皿が積み上げられ、部屋も散らかっている。
脱ぎ散らかした喪服、吸い殻でいっぱいの灰皿。
お父さんはこれを見て何を思ったのだろうか。
いっそ、お前はこの程度だったのか、と罵ってくれ。笑ってくれ。
そうしたら、俺は少しは前を向けるかもしれない。
しかし、現実は非情なものだった。
「チッ」
お父さんは舌打ちをすると上着を脱ぎ、袖を捲って皿洗いを始めた。
「……」
皿と皿がぶつかる高い音や、激しい水の音。
「なに…やってるんですか」
「このままにしておいたってどうしようもねーだろ」
ある意味、一番してほしくないことだった。
大好きな女の子の父親に部屋を掃除させるなんて。
お父さんは俺をどうするつもりなのだろうか。