陽だまりの詩 15-2
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まだ朝日が昇る前、俺は病院の廊下を駆け抜けていた。
昨日から延々と降る雪のせいで、道路は一面、白に覆われていた。
突然のことで、チェーンの準備なんてしていなかったため、車は動かせない。
俺は何度も転びそうになりながら、アパートから走ってここまで来た。
携帯が鳴っていると気付いたときには、既に数回着信があった後だった。
俺は角を曲がり、美沙の病室に飛び込む。
「美沙っ!」
沢山の看護師がいた。あの主治医も。
「はぁっ…はぁっ…」
ベッドの上の美沙は、眠っていた。
本当に眠っていたんだ。
「残念ですが…」
「見回りにきたらテレビがついていたので…起きているかと思って声をかけたら反応がなくて…」
主治医と看護師が何かを言っている。
俺には何も聞こえない。
そっと美沙の頬に触れてみる。
冷たい。
「美沙」
声をかける。
「美ー沙っ!」
何度も。
「みぃーちゃーん?」
その瞬間、俺の中で何かが弾けた。
「怒れよ!!」
美沙の肩を力強く掴む。
「なあ美沙!!お前そんな呼ばれ方されたら怒るだろ!!なあ!美沙!!」
ふと主治医と目が合った。
主治医は目を瞑り、首を横に振った。
「彼女はどういうわけか、苦しまなかったようだね…とても安らかな顔だ…きっときみに最後まで迷惑をかけたくなかったんだろう。だからきみは兄として、現実を見つめなさい」
「う…うわあああああああ!!!」
俺は主治医につかみかかった。
「あんたが!あんたがもっと早く手術してくれていれば!こんなことにはならなかったんだ!」
「……」
「なんか言えよ!ちくしょう!!」
「小僧!!」
振り返れば、お父さんが肩で息をしながら扉の前に立っていた。
誰が連絡したのだろうか。
ふとそんなことを考えた。
「春…陽…さん」
お父さんの後ろには美沙が立っていた。
体はガタガタと震えている。
「なんだよ!!お父さんと奏まで現実を受け止めろって言うのかよ!なんでこんなことになるんだよ!」
とにかく俺は、周りに当たり散らすしかなかった。
思考回路はとっくにオーバーヒートしていた。