還らざる日々〜last〜-17
「カズオ!久しぶり。聡美よ。覚えてる?」
一生の中で瞬く間に20年の歳月が埋まり、あの頃が甦った。
自身にとって最高の女との思い出が。
「…オマエ…ひっさしぶりやなぁーっ!元気か!」
「元気よ!カズオは?」
「声、聞いたら分かるやろ!」
興奮気味の一生は、関西弁丸出しだ。
聞けば実家の父親が亡くなり帰省したらしい。その時、昔を思い出して電話したそうだ。
彼女は北海道で5年経った時、職場の先輩であるレントゲン技士の男性と結婚し、今は12才の娘と8才の息子の母親だそうだ。
「お前、携帯持ってるか?…そうか、じぁあオレのアドレス言うから、オマエの近況写真を送ってくれよ。オレも送るから…じゃ、いいか、kazu-asai@……」
しばらくすると、携帯が鳴った。聡美からのメールだ。
添付写真は、娘と息子のようだった。
息子はややピンボケして分かりづらいが聡美に似ている。
娘は輪郭は彼女に似ているが、目鼻立ちは似ていない。父親似だろう。
海水浴に行った時に撮った写真らしいが、娘はとても12才には見えない。
「おい!この娘本当に小学生か?」
「バレーボールやってるからかナリだけは大きいのよ。背も170は有るから」
「じゃあ、将来の全日本だな…」
2人は受話器の前で笑った。一生は自分を携帯で撮ると、メールで送った。
しばらくすると返事が来た。
「カズオ、少し肥ったね。髪も薄くなって…」
「当たり前だ!あれから何年経ったと思ってるんだ。20年だぞ。
今じゃオレも〈40過ぎのオッチャン〉だ。そう言うオマエも、写真を送れよ」
「イヤよ!私もすっかり〈オバチャン〉になったんだから…」
一生は声を上げて笑うと、急に真面目な顔になった。
「仕事は?続けてるのか」
「今は市民病院でナース長をやってるわ。カズオはどうなの?」
「ああ、新しい所でやりがいの有る仕事をやらせてもらってる。毎日充実してるよ」
「カズオ、結婚は?」
一生は返答に困った。が、取り繕っても仕方がないから、ありのままを言った。
「未だだよ。4年前から付き合ってる女はいるがな…なかなか…」
その途端、聡美の口調は先ほどまでのはしゃぎようは消えて、穏やかに変わった。
「…一生。私、今でも指輪持ってるのよ…病院のデスクの引き出しにしまってるの…」
「そんな物捨てろよ。ダンナが嫌がるだろう」
「イヤよ…私の〈心の糧〉なんだから」
一生は黙ってしまった。聡美も同様に黙っている。
そろそろお別れのようだ。