還らざる日々〜last〜-16
─1,998年─
長く続いた尚美との関係にも、ピリオドが打たれる日が訪れた。
別れた後、尚美の慟哭が聞こえるアパートを後にして、一生はバイクに向かう。
ポケットからマールボロを取り出し火を着けた。
ゆっくりと煙を吐きながら夜空を眺める。空気が澄んでいるのか、星は煌々と瞬いている。
「とうとう独りになったな。これも自業自得だ…」
一生は独り言を吐くと、タバコを踏み消してアパートを後にした。
「一生、ハガキ。アンタ宛てよ」
尚美と別れて半年後のある日、母親が自室にやって来てハガキを渡した。
差出人の名前は辰本尚美とあった。
「…辰本…?」
裏を見ると、尚美が純白のウェディングドレスに身を包み、満面の笑みをたたえてケーキ入刀をやっている写真だった。
そのとなりは新郎だろう。一生よりも少し年上に見える。
写真の下になぐり書きで文章が書かれていた。
〈ざまあみろ!ウチは今、メッチャしあわせや!(ハワイより)〉
その文章は、いかにも天真爛漫な尚美らしい。一生は思わず吹き出してしまった。
「アッハッハッハ!アイツ、結婚したのか…ハワイかぁ…暑そうだな…」
一生はコルク・ボードに尚美のハガキを貼り付けた。
尚美と別れてから一生は色々な女性と付き合ったが、長くて数ヶ月、短いと1週間だけと続かなかい。改めて聡美のような女はそうはいないと悟った。
─2,008年─
〈プルルルルルッ!〉
夕食の準備に忙しい時刻、電話の呼び出し音が響く。
「アンタちょっと出て!」
手が離せない母親は、一生に電話に出るように言った。仕方なく子機を持ってリビングに座り、対応する。
「はい、浅井ですが…」
「一生さんをお願いします」
それは聞き覚えがある声だった。
しかし、〈どうせセールスか何かだろう〉と、一生はややぶっきらぼうに答える。
「一生は私ですが…」
その途端、女性の声が跳ねるようにカン高くなった。