還らざる日々〜last〜-14
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聡美を見送り、一生は自宅へ戻った。バイクをいつもの場所に止め、ヘルメットを脱いだ。
全てが終わり、脱力感だけが残っていた。
何もやりたくないし、誰とも会いたくなかった。
玄関ドアーへ、とぼとぼと歩いていく。
その時だ。
「カズオ!」
声のした方向を見ると、尚美がこちらへ近づいていた。
(厄介なヤツが来たな)
「久しぶりだな。どうしてた?」
一生はそう言って薄く笑った。
その瞬間、尚美が駆け寄って来る。手には光る物が見えた。
「どこまで人をバカにすれば気がすむんや!!」
叫び声と共に、切っ先を一生に向けて身体ごと飛び込んで来た。
〈グッ!〉と、うめき声を上げる一生。地面にポタッ、ポタッと鮮血がしたたり落ちる。
それを見た尚美は、正気に戻った。
「…アッ…アアアッ…」
涙を流し、身体はガタガタと震わせている。ナイフから離した手は赤く染まっていた。
「…わ…私…私…」
彼女は気が動転してしまい、その場から走り去った。
痛みに顔を歪める一生。騒ぎを聞きつけた母親が、何事かと玄関から飛び出して来た。
「一生?どうしたの。キャアッッ!!ち、血じゃないの!」
母親は大声で騒ぎ立てる。すると一生は、声を絞り出した。
「…で、デカイ声…出すな…何でもないんや。何でも…」
血は庭の砂利を真っ赤に染めていた。
一生は思った。
〈自業自得〉だと。
刺された怪我は軽傷だった。
尚美のナイフは最初、彼の腹を狙っていた。そのまま刺されれば、重傷だっただろう。
しかし、一生はその瞬間、ナイフを掴んで刺さるのを防いでいた
そのかわりに掌はザックリと切れ、傷はかなり深く、もう少しで神経に達するところだった。
すぐに病院に行って縫ってもらった。医師の診断では抜糸までに3週間、完治には5週間掛かるそうだ。
〈これも自業自得や。命が助かっただけでも儲けもんと思わな〉
そう一生は思った。