還らざる日々〜last〜-10
一生は聡美の荷物をホテルの部屋まで運び入れた。
「じゃあ、先ずはメシだ!」
聡美の手を引いて地下鉄で〇〇へ向かった。夕方の帰社時間のためか結構混雑している。
地下鉄を降りると、地下街を南に歩いてから地上へと階段を上り、〇〇へと向かった。
着いた場所は〈ペ〇カ〇ーレ〉というイタリア料理店だ。
「ここって…」
聡美がそう言って一生の顔を見る。
「そう。お前と初めてデートした時に来た場所さ…」
〈さ、行こう〉と一生は彼女の肩を押して、店に入った。
「この席も、料理も、あの時のモノを予約したんだ…」
一生の言葉に、聡美は目を潤ませながら頷くだけだった。
料理は、パスタとピッツァという妙な組み合わせだった。
この店は、その2つが〈ウリ〉なので、当時の一生は〈一緒に食べたい〉と両方頼んだのだ。
ワインも当時のモノだ。あの時は、どれが良いか解らずに適当に頼んだが、これが結構いけるモノだった。
食事の最中、2人は〈今までの思い出〉に華を咲かせた。
「一生を見た第一印象は…」
聡美はそこまで言って口ごもる。
「どうした?言えよ。怒らないから」
「怖そうだった…」
「ひでぇな!」
声をあげて笑う2人。明日の事は、お互い避けるように語ろうとさえしなかった。
食事を終えた2人は、ゆっくりと大通りを歩いていく。
聡美は甘えるように一生に身体を預けている。
「次は何処に連れて行ってくれるの?」
一生の顔を覗き込む聡美の顔は、実に楽しそうだ。
「何処がいい?」
彼女は少し考えるフリを見せる。
「もう少し飲みたい!」
一生は苦笑いを浮かべた。
「かしこまりました。お嬢様!」
そう言って、おどけて召し使いのようなジェスチャーを見せる。
2人はタクシーに乗り込むと、〇〇へと向かった。