アイドルヲタですけど何か?-4
「ねぇ、ちょっと」
「うん?」
声のした方を見ると、同じクラスの男子生徒が1人。名前は確か、長嶋太一。
「ちょっと優里さんに話があるんだけど、…借りてもいい?」
そう言って、にっこり笑って真樹の方を見る。真樹に聞いているようだ。
彼女がこくりと頷くと、再びこちらを見てきた。
「さて、人も多いし時間もないし…。昼休みに図書室にでも行こうか。冷房きいてるから、優里さんには好都合でしょ?」
「はぁ?」
いきなり何を言っているんだろう。
しかも、大体こいつはクラスでは無口な奴のため、今まで一度も話したことがなかったため、私とは何の繋がりも無い。
「…私に何の用なの」
そう言うと、彼はふふんと鼻を鳴らして、私の耳元でそっと囁いた。
「来れば分かるよ。『ユリア』さん」
私はその言葉に凍りつく。奴はそのまま意味有り気な笑みを浮かべたまま自分の席に戻って行った。
「優里、どうしたの!?何て言われたの!?」
「ううん、何でもない…」
そうは言ったものの、真樹は心配そうな顔で私を見ていた。きっと私の顔は青ざめているに違いない。
『ユリア』は私のハンドルネームであり、しかしアイドル掲示板以外では使っていないし、誰にも教えていない。
おまけに掲示板はパス制で、関係者以外の人は入ることができないし、チサさんを含む、その掲示板のメンバーとは昨日のライブで顔合わせしたばかりだ。
それなのに、どうしてあいつが私の秘密を知っているの!!?
──昼休み。
「優里、ご飯食べないで行くのー?」
「うん、お腹空いてないから…」
正確に言えば、「朝のことが気になって食事どころじゃないから」だけど。
とにかく、教室に奴の姿がないことを確認してから、私は図書室へと足を運んだ。