アイドルヲタですけど何か?-2
「ユリアさん、あと少しですよ!!」
「そうですね!どうしましょう、私、倒れるかもしれません」
私は隣にいる小柄な女性と語り合っていた。
彼女は『チサ』さん。『ユリア』は私のハンドルネームだ。
私とチサさんはアイドル掲示板で知り合った。私たちには共通点があったため、すぐに意気投合し、そして現在に至る。
「マサト、昨日の夜は寝れなかったらしいですよ。今日寝不足で困ってるマサトを想像すると、すごく可愛すぎてヤバいですよー」
「ユリアさんはマサトLOVEですもんねー。あたしも、ユウジの生声録って目覚ましにしたいなーんて思って、ほら、こっそり持ってきちゃいましたっ」
そう言って彼女は鞄の中からボイスレコーダーをちらりと見せた。本当は持ってきてはいけないものなのだ。
私と彼女の共通点。
それは───
「あっ、開きましたよ!!」
開場と同時に一斉に人がなだれ込む。みんな一生懸命なのだ。彼らに早く会いたくて。
「チサさん、今日は楽しみましょうね!!」
「あたしドキドキしてきた…」
私たちも中に入る。
今日は、ロックバンド『CREATOR』のライブが行われるのだ。
ここにいる人たちはみんな、彼らのファンであり。
つまり、私は彼らの熱狂的なファンであり、人は私たちをこう呼ぶ。
アイドルオタクと。
「──ライブ、最高でしたねー」
「ホント。絶対マサト、私と目が合いましたよ」
私たちがいるのは真夜中の街。私たち以外に道を歩いている人はいなくて、少し優越感を感じた。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。ライブが終わり、先程までの時間は夢のような錯覚にさえ思える。
「私、チサさんと来れて良かったと思います」
「そんな…。あたしだって、ユリアさんと来れたからこそ、こんな素敵な時間を過ごせたんだと思います。本当に今日は、ありがとうございました」
そう言ってチサさんがお辞儀するから、私もつられてお辞儀する。