還らざる日々T-15
「ヨッシャ!ほな、キレイにしような」
一生はタオルを泡立て、聡美の首筋から胸元へと全身を洗ってやり、シャワーをかけて泡を落とした。
「ヨシッ!キレイになった。じゃあ、交代や」
一生は聡美にタオルと石鹸を渡した。
彼女はそれを受け取ると、彼の身体を洗いだした。
一生を洗いながら、打ち明けねばならぬ事が頭をかすめる。
それを思うと、また映画館の時のように涙が溢れそうになった。
聡美はそれを打ち消そうと、彼の身体をこすり続けた。
「結局、2人で入っても時間変わらんくらいやったな」
パジャマに着替えて濡れた髪をタオルで拭ぐう一生。
冷蔵庫から先程買ったビールのを取り出し、テーブルの横に座って飲んだ。
〈ハァ〜美味い〉と、半分くらい飲んだ缶をテーブルに置いた。
その前では、聡美がテーブルの向こうで正座していた。その俯いた顔は、蛍光灯の光で青白く浮かんで見えた。
彼は目の前の光景に戸惑った。
聡美は震える声でポツリと言った。
「ねぇ、話があるの…座って…」
その変わりように、一生は〈どうしたんだ〉と訊きそうになるのを抑え、黙って彼女の前に座った。
「…あと…ひと月したら私、卒業なの…」
聡美は俯いたまま視線を合わせようとしない。
一生は頷いた。
「そうだな…そうしたら、オレの家に来ないか?…オマエと一緒に暮らしたいんや…」
その時、聡美はボタボタと涙をこぼして首を振った。
「…わ…私…北海道の根室の病院に決めたの!…」
それは一生にとって、生涯忘れられない驚愕な出来事だった。
…「還らざる日々」T完…