陽だまりの詩 14-9
病院のロビーに入った途端、美沙は言った。
「奏を送ってあげて」
美沙は笑って言った。
「…ああ」
「今日は直接帰っていいからね」
「……わかった」
俺はそれが、一人にして。と言っている気がした。
俺は美沙と別れると、奏の病室に向かった。
それにしても、あれだけ俺と美沙が声を出したのに全く起きないな、このお姫様は。
そんなことを考えながら、エレベーターに乗ったままボーっとしていた。
「…あ」
「…ぬ」
扉が開いた瞬間、目の前にはお父さんが立っていた。
「ども」
「てめえええ！」
「おわっ」
お父さんに胸ぐらを掴まれて奏の病室まで連れて行かれる。
「なにやってたんだ小僧！」
「なにって…ピクニッ…」
「ピクニックだとお！」
言いきる前に怒鳴られる。
「どうしたんすか？」
「奏のやつ、外出許可取ってねーんだよ！」
「え？」
「看護師も医者も慌てて探し回ってたんだよ！」
そうだったのか…
奏のやつ…
「すいません…知りませんでした」
今日一日は俺が保護者だった。
素直に謝るしかない。
するとお父さんは小さく舌打ち。
「……まあお前にも非はあるが、それは奏が勝手にやったことだからこれ以上は咎めん。後で俺が事情を話しておく」
「すいません」
「だがな、もうひとつお前は俺を怒らせた」
間髪入れず、お父さんは言う。
「なに羨ましい状態になってんだよ！！」
「へ？」
背中では、まだ奏が寝息を立てていた。
「このロリコンがあ！！」
あんたもだっ！！
美沙に取り入りやがって！！
ふぅ、なんとか言葉を寸前で飲み込めた。
「ふぁっ！」
なんというタイミング、奏が起きた。
「ここは！？え？芝生は！？」
すんごいパニクってる。
「…あ、春陽さんの背中だ…よかった、まだ夢の中だ」
おいおい…
「春陽さんの背中おっきいな…どうせ夢だし、いっぱいくっついてすりすりしちゃえ」
そう言って奏は俺の背中に擦りよる。
「……」
「……」
奏……可愛いんだが、非常にまずい…
「うわあああああ！」
お父さん、現実逃避。
「…奏、夢じゃないぞ」
「え？あ…きゃああああああ！」
奏、現実逃避。
「おい！おろしてやるから暴れるな」
「……は、はい」
ゆっくり両膝を曲げると、奏はすとん、と背中からおりた。
「うわ…病室だし、お父さんはいるし…」
どうやらやっと状況を把握したらしい。
「奏、お前、外出許可取ってなかったんだってな」
「……あ」
奏はやば、という顔を見せる。
「後でそこにうずくまっているお父さんにしっかり説教されなさい」
あまり俺が口を挟むことではないし、これくらいにしておく。
「じゃあまたな」
「はい、また」
俺はそう言うと、奏も同じように返した。