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陽だまりの詩
【純愛 恋愛小説】

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陽だまりの詩 14-8

風の音が耳につき、目が覚めた。

どうやら深く眠っていたようだ。

むくりと起き上がると、美沙が何かを書いていた。

「……美沙?」
「うわっ!!」
美沙は慌てて紙を隠す。
「……」
「…起きたんだ」
「ああ」
空を見上げると、既に夕日が沈みかけていた。

風も心なしか冷たい。

「奏はまだ寝てるのか」
すーすーと寝息を立てて爆睡している奏。
奏の寝顔なんて初めて見たな。
「……もう寒くなるし、帰るか」
「そうね」
俺は立ち上がって弁当箱を美沙に渡した。
「これ持てるか?」
「うん、奏はどうするの?」
「異常なまでに気持ちよく寝てるし、俺が背負って帰るよ」
「……変態」
「なに言ってんだよ」
「そこはあたしの特等席だったのになー」
美沙は立ち上がると、遠くを見ながら伸びをした。
特等席…そうだったな。
「……よっと」
奏を背負う。やっぱり軽いな。
「美沙、シート巻いてこのバスケットに入れてくれ」
「そっちも持たなくて大丈夫?」
「大丈夫だ」
「……そっか」



帰りはほぼ無言だった。
歩く音と風の音、奏の寝息しか聞こえない。

美沙は俯いて、なにかを考えているようだった。

最近の美沙はちょっと不思議だ。

聞いてみるか。

「美沙、なにかあったのか?」
「え?」
美沙の体がびくっとしたのを俺は見逃さない。
「最近のお前、おかしいぞ?」
「……ふふ」
「……」
なぜか美沙は笑ってみせた。
「最近よく思うんだ」
「…なにを?」
「あたしがいなくなった世界のこと」
「……お前」
「別にいなくなるなんて思ってないわよ」
「……」
美沙、お前はなにを言ってるんだ?
「もしあたしがいなくなっても、兄貴は頑張ってるかな、兄貴は奏と仲良くしてるかな、って」
「お前、俺のことばっかりだな」
平常心を保つために笑う。

「当たり前じゃん!」

その声が強く耳に響いた。
「あたしは今までの人生の中で兄貴しか見てないの!生まれたときからいつも兄貴があたしのそばにいたんだから、気になるでしょ!」
急に逆上する美沙。

しかし、その目は俺でなく、空を見ていた。

「美沙…ありがとう。でもな」
「……」
「簡単にお前がいなくなることなんて考えるな!俺だってお前の成長をずっとずっと見ていきたいんだよ!お前は俺の大切なたった一人の妹なんだから!」
「っ」

俺も空に向けて叫んでいた。
同時に素早く息を整える。

美沙に対し本気で怒鳴ったのなんていつ以来だろうか。

「……ごめん」
美沙は泣いていた。
「……美沙」
あんなに強くて涙を見せない美沙が。


それ以降、病院に着くまで会話はなかった。


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