桜が咲く頃〜ある日の出来事〜-2
彼女たちは、矮助が今何者かに狙われていると言っていた。
矮助と女中たち、どちらの言っていることが正しいのか?
それともう一つ、矮助は家の者に、鈴のことを自分の友達だと言っているらしい。
何故、友達だというのか?
自分は矮助の護衛ではないのか?
護衛としては役に立たないと思われているのか?
自分は矮助のために何かしたいのに、何ができるのか?
鈴は悩み続けていた…
『それで』
鈴は矮助に聞く。
『どこに行くんだ?』
『そ―だなぁ…』
矮助は少し考え――
『お前、バカにしてるのか…?』
『ん?』
矮助は団子を一串食べながら聞き返す。
『これのどこが仕事なんだ!?』
鈴は矮助に連れられ、団子屋に来ていた。
『実は今、偵察中なんだ』
『?』
怪訝な顔をする鈴に、矮助は、団子のついていない串を一本手にしたまま説明しはじめる。
『俺の家はあのお偉い方に仕える家。
仕事は色々ある。
こうやって椅子に座って団子を食べる。
あぁ美味しいなぁ。
あのお方にも食べて頂きたいなぁと思って差し入れする。
するとあのお方は喜んで、良い政策ができる。
また、食べることによってこの店は違法なものを混ぜていないか等を調べる。
それから、こうやって座って街の人たちの会話を聞き、皆は今何に困っているのか、あのお方に何を望んでいるのか、何に興味を持っているのか、何が人気なのか等を探り、あのお方に伝える。
そして、あのお方はこの国をより良くするために尽力をつくされる。
ってわけで、こうして団子を食べるのも、立派な仕事なんだよ』
そう言って矮助は新しい団子を口にする。
『…ヒマな仕事だな…』
鈴の冷たい一言に、矮助はぐさりとした。
『だから朝昼晩、毎食俺と食べられるんだな。
きちんと仕事をしていたら、そんなこと出来ないだろうからな』
矮助は、確かに今言ったような理由から街をぶらぶらすることもある。
しかし、父の使いで遠方に出かけることもあるし、出かけた先で何日も泊まり込むこともある。
けど今は鈴がいるから、もし鈴が女だと言うことが家の者に知られれば、鈴は矮助の帰りを待たずに屋敷を出るだろう。
そんな鈴を心配して、矮助はなるべく鈴の傍にいようとしていた。
そんな矮助の想い、鈴本人はまったく気付いていなかった。
矮助は複雑に思いながらお茶をすする。
鈴は団子を一串手に取り、一つ口にする。
すると、とたんに鈴の表情が変わる。