やっぱすっきゃねん!Ulast-4
「おはよう。カヨッ」
佳代は、昨日とのあまりのギャップにたじろいだ。
「…お、おはよう…ございます」
「そんなに緊張すんなよ」
「き、昨日、あんな事言ったクセに、よくも……」
「オマエが遅刻しなけりゃ、オレはいつもこうだぞ」
山下はそう言うと笑みを浮かべた。
「…アホくさ…」
佳代は山下との会話を止めて、皆が並ぶ列の中に入った。
9時になった。すでに全員が揃っている。
「練習を始める前に、今日から〈朝の声出し〉をやるからな」
山下が皆に言った。
「キャプテン。朝の声出しって?」
同じ2年の久米の手が上がる。
「今から、オレと直也、淳がやるから」
そう言って山下は列から少し離れると、両手を後に組んだ。
「青葉中!野球部!3年!山下達也!今年の目標は!全国制覇です!
そのために!今まで以上に!キャッチャーというポジションを精進し!日本一のキャッチャーを目指します!」
山下の腹の底から出された声は、グランドいっぱいに広がった。
終わった後、部員達は思わず手を叩いた。
次に直也、橋本と同じように、所属と学年そして、目標と、そのための努力と決意をグランドで叫んだ。
(これってプロがキャンプでやってるヤツだ)
拍手をしながら、佳代はテレビのスポーツニュースで見たのを思い出していた。
コレも一哉のアイデアだった。一種の〈刷り込み〉のようなモノで、要は設定と過程を声に出して言う事で、脳に〈やれる〉と思い込ませるのだ。
「これから毎日3人づつやってもらう。明日は秋川、稲森、佳代だ」
「エッ?何で私」
「今日がキャプテンに副だったろ。だったら次は守備係と教育係に回すのが当然だろう」
「…そうだけど」
「どうせ部員は36人だから、月に2回は回って来るんだ。まぁ、何か考えとくんだな…」
山下は、そこで話を切るとランニングの準備を指示する。
準備運動も終わり、ランニングが始まった。いつもなら中団辺りを走ってる佳代が、今日は最高尾辺りについている。