やっぱすっきゃねん!Ulast-20
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「ラストッ!」
一哉の打球が左に飛んだ。佳代の身体は一瞬沈み、跳ねるように打球を追う。
身体は大きく横に滑った。
佳代は上体だけ起こし、グローブを高く上げた。
中にはボールが収まっていた。
「ヨシッ!終了だ」
一哉の声がグランドに響く。佳代は絶え々の息で身を起こすと、
「…あ…ありがとう…ござい」
そこまで言って、崩れるように倒れてしまった。
全員が慌てて佳代の元に走り寄る。すぐに葛城が状態を見た。
「呼吸も脈も安定してます」
一哉は頷くと佳代の上体を抱き起こした。
「修。姉ちゃんのレガースを外してくれ」
「…ハ、ハイッ!」
修は泣いた顔にクシャクシャの笑顔を浮かべると、姉のそばに寄った。
一哉と2人、キャッチャーの装着品を外す。
「葛城さん。ちょっと見てて下さい」
装着品を外した佳代を葛城に任せ、一哉は駐車場からグランドにクルマを乗り入れた。
「修。後で姉ちゃんの自転車を取りに行ってくれるか?」
その時、永井が話に割って入る。
「私のクルマに積みましょう。準備しますから」
永井は駐車場へと向かった。
「修。先に帰って、この事をお父さん、お母さんに伝えてくれ」
「ハイッ!」
修は慌てて自転車で帰って行った。
一哉は佳代をクルマの助手席に乗せた。
「さて…我々も道具を片づけて帰りましょう」
一哉と葛城は道具を持って用具室に歩いて行く。
葛城が言った。
「…あんなノック、私が現役の頃でもやった事ありません。
見てるうちに、何だか…怖くなって…」
「あれは私が中2の時、県内の強豪高校に頼んで体験入部した時に受けた練習です。
ただ、実際は硬式でしたが」
「でも、藤野さんもですが、澤田さんも凄くて…特にラスト10球の動きなんて…」
「…アレが本来の力なんですよ。
それをようやく見せてくれた…」
話ながら戻っていると、永井が待っていた。
「藤野さん。自転車と荷物は積み込みましたから」
「そうですか。じゃあ、帰りましょう」
グランドの照明は落ち、クルマはゆっくりと学校を後にした。