還らざる日々〜Prologue〜-4
「いいよ。今度はシラフで会ってから飲みに行こう」
一生は1度だけ会って、聡美の事を話そうと考えた。
返事を聞いた彼女は、急に饒舌に変わった。
「ありがとう!メッチャ嬉しい!何処で待ち合わす?
あ、そや!何着てこぅ。やっぱ、スカートやな、いや、いつにする?」
一生は子機から聞こえる彼女の高揚した声に、自然と笑みがこぼれた。
「まあまあ、落ち着けよ。今度の土曜日の午後…そうだな、3時にオレが迎えに行くよ。
場所はこの間、キミがタクシーから降りた場所で」
「私な、行きたいトコあんねん」
「ドコ?」
「〇〇ってライブハウスと…」
「…と?」
「〇活の映画!」
「キミな!〇〇はともかく、〇活ってどないなモンか分かって言うてんのか?」
興奮した一生はつい関西弁で声を荒げた。そんな彼を他所に、尚美はケラケラと笑っている。
「まぁ、だいたいわなぁ。でも、実際に見た事ないんよ。でも、男の人と一緒やないと入られへんし…」
答えに呆れる一生。
「分かった。連れてったるわ!」
一生は約束すると電話を切った。
飲みかけのビールを口に含んだ。ぬるさと苦さだけが残っている。
キッチンから2本目ビールを持って来て開けると、テレビの電源を入れた。
11時近いためか、ろくな番組をやっていない。
一生はリモコンでテレビの電源を切ると、ビールを一気に飲み干した。
急激に眠気が襲ってきた。時計のタイマー・スイッチをオンにすると部屋の明かりを消して、ベットに潜り込んだ。
───
「浅井君。今日、残業してもらえないかな?」
それは午後いちの事だった。直属の上司である課長の小門からの申し出だった。
彼の話では急ぎの仕事がまい込み、明日の昼までに納品しなければならないらしい。
ただ、一生にしてみれば昨夜の聡美との約束があった。
いつもならふたつ返事で引き受けるが、今日は無理だった。
「課長。申し訳ありませんが、今日は用事が有りますので、定時に帰らせてもらいたいのですが…」
彼の返事に、小門はやや困った顔を浮かべた。
「…そうか…用事って?」
一生は、一瞬どう切り出そうかと考えたが、こういう場合、正直なのが得策と思った。
「…はぁ、夜に彼女と会う約束をしたもので…」
その瞬間、小門は破顔一笑する。