還らざる日々〜Prologue〜-2
「まぁ、いいさ。たまには羽目を外さないと窒息してしまうからな…」
「そうやね。今もそうやけど、この間すっごい楽しかったもん!久しぶりに関西弁も使えたし」
「そうか。オレで良かったら、何時でもいいよ」
一生は自宅の電話番号を彼女に教えた。
「じゃあ、今どこから掛けてるの?」
「今、会社」
「エーッ、仕事頑張ってるやん!」
「そうじゃないさ。要領悪いから人より遅いだけださ。じゃあ遅くにすまなかったな。また…」
一生はゆっくりと受話器を戻すと、冷めたコーヒーをすすった。
苦味だけが口に残る。
彼は引き出しからマールボロを取り出し、1本口にくわえるとジッポーで火を着けた。
青い煙を眺めながら、電話での内容を頭の中で巡らせていた。
───
午後9時半
帰宅した一生は、バスルームに向かった。連日、8時過ぎまでの仕事が続いている。
若い一生にとっては肉体的苦痛はなかったが、精神的にはかなり参っていた。
それ故、湯船に浸かってリラックスしたかった。
「一生。電話」
脱衣所で着ている服を脱いでいると、母親の理香がキッチンから呼びに来た。
「誰?」
「かーのーじょ!」
一生が付き合っている聡美からだった。
仕方なくバスタオルを腰に巻いて、電話の子機を持って自室に向かった。
「どうした?こんな時間に」
「だって…2週間近く会ってないから…」
確かにそうだ。仕事が遅かったり、先輩のコンパに付き合わされたりして、聡美に会う機会を逸していた。
「仕事で毎日遅かったからな」
「仕事つらい?」
「そんな事ないさ。やりがいある仕事だよ。オレの要領が悪いだけだ。オマエこそ大変だろ?」
聡美は専門学校に通うために、親元を離れて独り暮らしをしていた。
昼間は学校へ行き、夜から早朝に掛けては市場でバイトをやり、寝るのは夕方から夜という生活を送っていた。
「私は大丈夫!あと半年あまりで卒業だもん。それまで頑張る」
弱音や愚痴は吐かず、人に対しては優しく接する。
一生は聡美のそんな所が好きだった。