一人舞台-5
「それ、お前の為に書いたんだな」
中嶋がぼそっと呟いた。俺は涙を拭うことも忘れて、小説から目が離せないでいた。
一昨日、俺の小説が認められた。たまたまだった。書き続けていた小説の一つをみんなに絶賛された。
応募してみな、一次通ったらお前らに焼肉奢ってやる。教授のその一言がきっかけだった。最終にまで残ったことを知らされた時はみんなで有頂天になった。
その当時、居酒屋でバイトをしていた朋子は夜0時を回らなければ俺の家には来れなかった。足が無かった俺達は、仕方なく連絡だけして先に飲み会を始めた。
その直後に悲劇は起きた。
仁志、携帯が鳴ってるよ。メンバーの一人がそう言った。嫌な予感がした。電話に出ると朋子のお母さんからだった。
仁志君……朋子が、朋子が――。
「あの時、俺があいつを迎えに行っていれば……いや、飲み会なんかやらなきゃよかった。賞なんか、小説なんか書かなきゃよかった!」
遠くで太鼓の音が鳴り響く。
「気付けよ、お前の小説を一番喜んでいたのは朋子ちゃんだ。朋子ちゃんが死んだのは小説のせいじゃない」
大型トラックに跳ねられた彼女は原型を留めていなかった。
青空の下で揺れる向日葵のようだった朋子が、もういない。そして俺は書く事を止めた。