loopU-4
『由紀には好きな人がいるんでしょう?』
『…なんで』
『ずっと前から好きな人、いるでしょう?』
凛とした睦月の声だけがオレンジ色の教室に響き渡っていて、表情は逆光でうまく見えなかったけれど、僕は睦月の鋭さに少しばかり驚くのと一緒に、急に気まずくなって息苦しさを覚えた。
『…なんでわかったの。』
思わずかすれた僕の声に睦月は少し笑った。
ずっと見てたって言ったでしょう、と。
過ぎ去っていく睦月の背中は真っ直ぐとしていて、強くしなやかに見えた。
それでも睦月を傷つけてしまったことは…こんな僕にでもわかった。
情報というのは早い。
それが真実であろうが嘘であろうが。
周りには僕がずっと想っていた女の子に振られたという噂が一瞬にしてまわり、別れた原因は様々だった。
けれど、睦月が噂の根源なのか、僕に好きな人がいる事も、僕が別れを切り出した事も、真実はまるでないまま、何の前触れもなく睦月は海外へと旅立った。
睦月が旅立った次の日、朝一番で僕のところに来たのは誰でもなく祐介だった。
優しい祐介は、僕が傷ついて落ち込んでいると思ったんだろう。
けれど睦月の留学を僕はこの時初めて知った。
僕は驚く程に睦月の事を知らなかった。
『睦月、何も由紀に言ってなかったのか?!』
『…うん。寝耳に水だね。』
僕が笑ってそう言うと、祐介はぐしゃりと顔を歪めた。
『なんでこんな時まで由紀は笑ってんの…悲しい時は泣けよ…』
今にも泣きそうな祐介を見て、ああ、本来僕はここで悲しむべきなのかと、ただ思った。
うずくまって声を押さえ込みながら泣く祐介を見て、僕は涙すら出ずに、こんな風に悲しむ感情をどこかに置き忘れてきたのだと感じた。
いや、忘れてきたのではなく、睦月がいなくなった事に対して、驚くほど悲しみを感じていないのが事実だったんだろう。
それを祐介に言ったらどうだろう?
僕を軽蔑の目で見るだろうか。
いっそのこと、そう蔑んでくれた方が楽かもしれない。
『…大丈夫だから』
僕は笑ってそう言った。
本当の事を言えない僕は弱いのかもしれない。
*********
「…忘れたならいいんだけどさ。」
祐介はやりきれない、といった表情でビールをまた一口飲んだ。
「そんな未練たらしくなんかないから。」
僕はへらへらと笑いながら、もともとそんなものなかったのだから、と心の中で言ってみる。
「たしかに…由紀は未練たらしそうなタイプじゃないけどな。ただ…」
「ただ?」
「…なんかずっとずーっと昔から何か抱えてる気がすんの。睦月とか関係なしにさ。睦月よりもっと前の…なんつーかうまく言えないんだけど。」
突然の祐介の言葉に、そうか、祐介の本題はここかと僕は思う。
でも、それを祐介に言う気は僕にはない。
言ってどうなる?
何も考えてなさそうな、適当でいつもふらふらしている“由紀”で僕はいい。
その方がずっと楽なのだから。