ヒメゴト〜nothingness〜-4
―――しばらくして…
「ちょっと便所。」
ほろ酔いの慎哉がフラフラと席を立つ。
チャンスとばかりに美映は陽介の隣に座った。
「何かありました?今日の西田さん、おかしいですよ?」
美映は酒に強く、
人前で酔い潰れる事などほとんどなかった。
陽介もまた酒には強い方だったが、
ピッチも早く、
ヤケクソな飲み方をしていたので、
微かに酔っていた。
「別に…何も…?」
「嘘!絶対何かあった!」
ぐい、っと腕を掴まれ、
驚いて思わず美映の顔を見返す。
陽介の顔を覗き込み、
美映の真剣な眼差しに、
一瞬怯む。
「本当だって…」
そっと掴まれている手を離し、
正面に向き直る。
「昼間の会議室でもおかしかったですよ?悩み事ですかぁ?」
陽介は確信をつかれた気がし、ギクリとした。
横から美映の痛い位の視線が刺さる。
しかし悩みの内容は言えない。
男女間で相談し合うこともあるだろうが、
陽介には出来なかった。
「水臭いなぁ。同期なんだから何でも話してくれれば良いのにぃ」
美映はぷくぅ、と頬を膨らませ、
グラスの中身を飲み干す。
(野村サンの事だぞ?言えるか!)
陽介は自問自答をしながらカパカパと酒を煽る。
すると、慎哉がフラフラしながら戻って来た。
どうやらそろそろ限界らしい。
明日も皆出勤しなくてはならないので、
早々にお開きにすることにした。
居酒屋でそれぞれ別れ、
陽介は徐に会社に向かって歩き出した。
部屋に帰ったらきっと眠れない。
(あの応接間で寝よ…)
飲みながら色んな事を考えた為、
全員と別れた事で気が抜けてしまい、
急激に酔いが回り始めた。
「にーしださんっ!!会社戻るんですか?」
後ろから背中をドン、と叩かれ、
驚いて後ろを振り返る。
そこには満面の笑顔で美映が立っていた。