ヒメゴト〜nothingness〜-2
―――陽介はというと…
未だ自分のデスクから立つ事が出来ないでいた。
茫然自失…。
しかし頭の中は麻衣子のあの表情でいっぱいだった。
(自惚れてただけ…?野村サンは俺に気が有る…なんて…)
実際麻衣子本人の口から聞いた事は無い。
けど陽介には言葉で聞かなくとも確信があった。
(此処でしてたんだぞ?)
うつむき、目を瞑り、
麻衣子が居たあの瞬間を思い出していた。
小さなオモチャを使い、
それを陽介に見立てて快感を得ている…。
小さく響くモーター音。
陽介は目を瞑ったまま、
そっと象徴を触ってみる。
次第に形を露にしていく象徴から、
陽介はパッ、と手を離し、目を開け、
大きく溜め息を吐く。
(帰ろ………)
急に虚しくなり、陽介は家路につくことにした。
(そうだ、メールしてみるか…)
陽介は暗闇の中、
ポケットから携帯を取り出すとほぼ同時、
着信音が流れる。
(タイミング良い!)
「もしもし?」
上機嫌で電話に出る。
頭の中が麻衣子でいっぱいだった陽介は、
すっかり麻衣子からの着信だと思い込んでいた。
「あ、西田さん?高野でーす。今、どちらですか?」
陽介は言葉が出てこず、
その場に呆然と立ち尽くした。
「もしもーし?西田さん?聞いてますー?」
携帯からは高野美映が騒いでいる声がした。
ハッ、と我に返った。
「何?」
もう麻衣子でなければ会話するのさえ億劫だった。
「今どちらですかぁ?」
美映は明らかに上機嫌で、周りもうるさかった。
「まだ会社。用は?」
陽介は今更出たことに後悔していた。
こうもテンションが違うと億劫どころかうざったかった。
「今ぁ、△△って居酒屋で熊野さんと二人で飲んでるんですけど、予定無いなら西田さんも来ません?」
周りが騒がしいのは居酒屋に居るからだった。
一人オフィスに佇む陽介との温度差が激しく、
陽介はまた大きく溜め息を吐いた。
しかし少し心が動いた。
熊野とは熊野慎哉の事だろう。
慎哉も陽介の同僚で、
陽介とは良く会社帰りに飲みに行っていた。
△△という居酒屋も慎哉の行き着けで、
陽介も何度も足を運んでいた。